『源氏物語』で有名な和歌の訳くらべ②
『源氏物語』で特に有名な和歌の訳くらべ②!(①はこちらです)
①が紫の上が亡くなる直前、光源氏と明石の中宮に見守られながら詠んだ、紫の上最期の歌でした。
今回の②はそれに対する光源氏の返歌です。
ややもせば消えをあらそふ露の世に 後れ先だつほど経ずもがな
ややもせば
消えをあらそふ
露の世に
後れ先だつ
ほど経ずもがな
訳くらべ
以下、訳の文字数が多い順に並べています。
どうかすると先を争って消えようとする露、その露のようにはかないこの現世では死に遅れたり先だったりするのに間をおかず、一緒に死にたいものです。
↑ 世を「現世」と訳しているのが珍しいです。
どうかすると、先に消えるのを争う露のようにはかない人の世に、後れて先立つ間もないようにしたいものだ。
※死ぬなら一緒に同時に死にたい。
↑ 注記で補足があります。
ともすれば先を争って消えてゆく露のようにはかないこの世に、私たちは、おくれたり先だったりする間をおかずに、一緒に死にたいものです。
↑ 中盤に「私たちは」と主語を補足してくれていて、わかりやすいです。
ともすればどちらが先に死ぬかを競う無常な世であるが、今は後れるか先かと争わずにすむようであってほしい。私も早く死にたい。
↑ 「露」は省略されています。最後に端的に心情を吐露しているのが印象的です。
どうかすると先を争って消えてゆく露のようにはかない人の世に
せめて後れたり先立ったりせずに一緒に消えたいものです
↑ 「せめて」という語は、元の歌に該当する語がありませんが、「愛するあなたの死を避けられないのなら」という気持ちが暗に込められていていいですね。
ややもすると先を争って消える露のような私たちですが、先立たれてもほどを経ずにおくれずにいたいと思います
↑ 「後れ先だつ」を「先立たれても」と訳しているのが特徴的です。
ともすればはかない露のような世にあなたに後れて生きたくはない
↑ 57577での訳。結句の「生きたくはない」は強い言葉ですね。
◇平井仁子訳
君と僕
競争なんて
したくない。
この世のゴール
先に逝くなよ。