百人一首を31音口語訳

目次

31音(おん)口語訳とは

和歌を味わうには、訳も五七五七七が良いと思っています。
5+7+5+7+7=31音です。
和歌は調(しら)べが命。
調べとはリズムのこと。
ぜひ31音口語訳を声に出して読んで、そのあとに元の和歌を声に出して読んでいただければと思います!
※元の歌を音読する際、「歴史的仮名遣い」の読み方にご注意ください。
 「歴史的仮名遣いの読み方」についてまとめたページもご参照ください。

なお、たった31音にまとめるので、枕詞(まくらことば)や地名などの情報をそぎ落としています。
逆に、背景を知らないと理解しにくい歌には必要な要素を加えています。

また、できるだけ「口語」にした方が若い方にも伝わりやすいと思いまして、くだけた表現にしています。
どうが「言葉の乱れ」だと目くじらを立てずに、ご容赦頂ければ幸いです。

百人一首 各歌の詳細

こちらでは、元の歌と31音口語訳だけを載せております。
正確な逐語訳や文法説明などを知りたい方は、インターネット上の検索すると出てきます。

個人的にオススメなのは和菓子屋 小倉山荘様のページです。
(お菓子も美味しくてオススメです)

もし本を買うなら文英堂の『原色小倉百人一首』がオススメです。
文法も背景も丁寧に解説されている上に、歌ごとの写真がとっても綺麗です。

百人一首とその31音口語訳

1~10

1.秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)

秋の田の
かりほの庵(いほ)
(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)
(つゆ)にぬれつつ

訳:秋の田を
  夜通し守る
  仮小屋の
  屋根が粗くて
  袖にも夜露(よつゆ)

☆元々は農民の歌だったのですが、民の苦労に寄り添う天皇の歌とされました。

2.春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山(持統天皇)

春過ぎて
夏来(き)にけらし
白妙(しろたへ)の 
(ころも)干すてふ ※「てふ」は「ちょう」と読む。
(あま)の香具山(かぐやま)

訳:春過ぎて
  もう夏だよね!
  真っ白な
  シャツが洗って
  干されているよ。

☆「天の香具山」は奈良県橿原(かしわら)市にある山。天(=高天原)から降った山だという言い伝えもあります。ダイナミックですね!

3.あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂)

あしびきの
山鳥(やまどり)の尾の
しだり尾の
ながながし夜を
ひとりかも寝む

訳:独り寝の
  夜は長いなぁ。
  山に住む
  鳥の尻尾の
  ように長いよ。

☆この山鳥はキジ科の鳥で、昼は雌雄で一緒にいるけれど、夜は別々に寝るとされています。平安時代の「通い婚」は夜だけ男女が一緒なので、真逆ですね!

4.田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ(山部赤人)

田子(たご)の浦に
うち出(い)でて見れば
白妙(しろたへ)
富士の高嶺(たかね)
雪は降りつつ

訳:静岡の
  海岸に立ち
  富士山を
  見上げてみると
  雪が降ってる

☆距離的にかなり離れているので、雪が「積もった」状態しか見えない。「降っている」は想像。もし本当に見えていたら、想像を絶する視力ですw

5.奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき(猿丸大夫)

奥山に
紅葉踏み分け
鳴く鹿の
声聞く時ぞ
秋は悲しき

訳:山奥の
  紅葉の道で
  鹿の鳴く
  声が聞こえる
  秋は悲しい

☆せっかくなので、雄鹿の鳴き声をYouTubeで調べてみました。雄鹿の鳴き声 まとめ

6.鵲の渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける(中納言家持)

(かささぎ)
渡せる橋に
置く霜の
白きを見れば
夜ぞ更けにける

訳:七夕の
  鵲のようだ。
  階段に
  霜が降りてる
  夜更けになった。

☆宮中の御階(みはし、=階段)に霜がかかっているのを、七夕に織姫と彦星が会うためのカササギの橋になぞらえている歌です。

7.天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも(安倍仲麿)

(あま)の原
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
(い)でし月かも

訳:大空の
  彼方を見れば
  ふるさとで
  見ていた月が
  ここでも見える

8.わが庵は都のたつみしかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり(喜撰法師)

わが庵(いほ)
都のたつみ
しかぞ住む
世をうぢ山と
人はいふなり

訳:のどやかな
  宇治山暮らしを
  人々は
  世を憂いての
  隠居と見なす

9.花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(小野小町)

花の色は
移りにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに

訳:雨を見て
  ぼーっとしてたら
  あっけなく
  花も私も
  色あせちゃった

10.これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬもあふ坂の関(蝉丸)

これやこの
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
あふ坂の関

訳:これこそが
  出会いと別れの
  人生の
  縮図のような
  逢坂の関

11~20

11.わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣舟(参議篁)

わたの原
八十島(やそしま)かけて
(こ)ぎ出でぬと
人には告げよ
海人(あま)の釣舟(つりぶね)

訳:釣り船よ
  我は流刑(るけい)で
  漕ぎ出たと
  京の人らに
  伝えておくれ

12.天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍昭)

(あま)つ風
雲の通ひ路(ぢ)
吹きとぢよ
乙女の姿
しばしとどめむ

訳:風よ吹け。
  道を閉ざせよ。
  舞姫の
  天女を空に
  帰らせないよう。

13.筑波嶺の峰より落つる男女川 恋ぞ積もりて淵となりぬる(陽成院)

筑波嶺(つくばね)
峰より落つる
男女川(みなのがは)
恋ぞ積もりて
(ふち)となりぬる

訳:男女川(みなのがわ)
  下るにつれて
  この恋も
  積もり積もって
  もう溺れそう

14.陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに 乱れそめにしわれならなくに(河原左大臣)

陸奥(みちのく)
しのぶもぢずり
(たれ)ゆゑに
乱れそめにし
われならなくに

訳:あなただよ。
  私じゃないわ。
  このハートを
  乱れ模様に
  染めた犯人。

15.君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ(光孝天皇)

君がため
春の野に出でて
若菜摘(つ)
わが衣手(ころもで)
雪は降りつつ

訳:君のため
  邪気を祓える
  春の菜を
  雪降り続く
  野で摘んでいる

16.立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む(中納言行平)

立ち別れ
いなばの山の
峰に生(お)ふる
まつとし聞かば
今帰り来(こ)

訳:お別れし
  因幡に行くが、
  「戻って」と
  聞いたらすぐに
  帰ってこよう。

17.千早ぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)

千早(ちはや)ぶる
神代(かみよ)も聞かず
竜田川
からくれなゐに
水くくるとは

訳:神話でも
  聞かない不思議。
  竜田川が
  紅(くれない)色に
  水を染めてる。

☆「水くくる」は「水をくくり染め(しぼり染め)する」の意味。川を擬人化してますね!

18.住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ(藤原敏行朝臣)

住の江の
岸に寄る波
よるさへや
夢の通ひ路(ぢ)
人目(ひとめ)よくらむ

訳:夢でさえ
  あなたは通って
  こないのね。
  人目を避けて
  いるのでしょうか?

19.難波潟短き蘆のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや(伊勢)

難波潟(なにはがた)
短き蘆(あし)
ふしの間も
逢はでこの世を
過ぐしてよとや

訳:逢わないで
  過ごせと言うの?!
  ごく短い
  イネ科の葦(あし)
  節(ふし)の間(ま)ほども

20.わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ(元良親王)

わびぬれば
今はたおなじ
難波(なには)なる
みをつくしても
逢はむとぞ思ふ

訳:露見して
  どうしようもない。
  もうままよ!
  身が滅ぼうと
  あなたに逢おう。

☆ここでの「わびぬる(困った)」事情は、実は女御(天皇の妻)との不倫の発覚です。

21~30

21.今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな(素性法師)

今来(こ)むと
いひしばかりに
長月の
有明の月を
待ち出でつるかな

訳:すぐ行くと
  あなたが言った
  秋の夜。
  夜明けの月が
  先に来ちゃった。

22.吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ(文屋康秀)

吹くからに
秋の草木の
しをるれば
むべ山風を
あらしといふらむ

訳:吹くとすぐ
  秋の草木が
  枯れるから
  荒らす山風
  嵐と言うのか

☆「荒らし」「嵐」の掛詞です。アイドル嵐の「COOL&SOUL 」という歌にも「山 風 合わせ巻き起こると皆大慌」という歌詞があります♪

23.月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど(大江千里)

月見れば
ちぢにものこそ
悲しけれ
わが身ひとつの
秋にはあらねど

訳:月見ると
  千の悩みで
  鬱になる。
  一人にだけ来た
  秋じゃないけど。

☆「千々(ちぢ)」と「一つ」の対比です。白居易の漢詩をもとに詠んだ歌です。

24.このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに(菅家)

このたびは
(ぬさ)も取りあへず
手向山(たむけやま)
紅葉(もみぢ)の錦
神のまにまに

訳:用意した
  錦が見劣り
  するほどだ。
  紅葉の錦を
  神様どうぞ。

☆2つの解釈を解説したページがございます。

25.名にし負はば逢坂山のさねかづら 人に知られで来るよしもがな(三条右大臣)

名にし負はば
逢坂山(あふさかやま)
さねかづら
人に知られで
来るよしもがな

訳:さねかずら
  「寝(ね)」の字ある蔓(つる)
  手繰り寄せ
  人に知られず
  君と会いたい

☆「名にし負はば(何もっているのなら)」の「名」は逢坂山あふさかやま)かづらの「逢う」と「寝」。
結句の「くる」は「繰る(手繰り寄せる)」と「来る(会いに行く)」の掛詞です。

26.小倉山峰のもみぢ葉心あらば いまひとたびのみゆき待たなむ(貞信公)

小倉山(をぐらやま)
峰のもみぢ葉(ば)
心あらば
いまひとたびの
みゆき待たなむ

訳:小倉山の
  紅葉よ。心が
  あるならば、
  次の行幸
  まで散らないで。

☆2つの解釈がある歌です。詳細はこちらのページに。

27.みかの原わきて流るるいづみ川 いつ見きとてか恋しかるらむ(中納言兼輔)

みかの原
わきて流るる
いづみ川
いつ見きとてか
恋しかるらむ

訳:いづみ川の
  ように湧き出た
  恋心。
  あの方の顔
  いつ見たんだろ。

☆「泉川」と「いつ見た」で同音反復させている歌なので、「いずみ川」は歴史的仮名遣いの「いづみ川」にしています。

28.山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば(源宗于朝臣)

山里は
冬ぞ寂しさ
まさりける
人目も草も
かれぬと思へば

訳:山里は
  冬に寂しさ
  まさるなあ。
  人も来ないし
  草も枯れちゃう。

☆人目が「離(か)る」で人の訪れがなくなる(間遠になる)の意味です。

29.心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花(凡河内躬恒)

心あてに
折らばや折らむ
初霜(はつしも)
置きまどはせる
白菊(しらぎく)の花

訳:テキトーに
  折ろうとしても
  白菊は
  初霜のなか
  見分けられない

☆初霜の白さが白菊の純白を引き立てています。

30.有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし(壬生忠岑)

有明の
つれなく見えし
別れより
暁ばかり
憂きものはなし

訳:ふられた日、
  夜明けの月も
  冷淡で、
  夜明けが一番
  嫌いになった。

☆失恋を引きずっている歌です。

31~40

31.朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪(坂上是則)

朝ぼらけ
有明の月と
見るまでに
吉野の里に
降れる白雪

訳:夜が明けて
  輝く吉野に
  ほの白(じろ)
  降る白雪は
  月光のよう。

☆雪を花に、花を雪に喩えるように、月光の白さを雪や霜に、雪や霜を月光の白さに喩えることもあるんです。

32.山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり(春道列樹)

山川(やまがわ)
風のかけたる
しがらみは
流れもあへぬ
紅葉なりけり

訳:渓流(けいりゅう)
  緩やかにする
  柵(しがらみ)
  紅葉散らした
  風のいたずら。

☆風を擬人化している歌なので、思い切って「風のいたずら」にしました。

33.ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ(紀友則)

ひさかたの
光のどけき
春の日に
しづ心なく
花の散るらむ

訳:春うらら
  桜に宿る
  妖精は
  なぜにこんなにも
  慌てん坊か

34.誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに(藤原興風)

誰をかも
知る人にせむ
高砂の
松も昔の友
ならなくに

訳:高砂の
  松は長寿だ。
  旧友も
  長く生きてて
  欲しかったなぁ。

35.人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける(紀貫之)

人はいさ
心も知らず
ふるさとは
花ぞ昔の
(か)に匂ひける

訳:旧友の
  心の変化は
  知らないが、
  梅の香りは
  昔と同じ。

36.夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ(清原深養父)

夏の夜は
まだ宵(よひ)ながら
明けぬるを
雲のいづこに
月宿るらむ

訳:夏の夜は
  夕暮れのまま
  朝が来た。
  月は落ちずに
  雲の後ろか。

37.白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける(文屋朝康)

白露(しらつゆ)
風の吹きしく
秋の野は
つらぬきとめぬ
玉ぞ散りける

訳:秋風で
  露が舞い散る
  のはまるで
  
  ネックレスから
  逃げてくパール

38.忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな(右近)

忘らるる
身をば思はず
誓ひてし
人の命の
惜しくもあるかな

訳:神様に
  誓った愛を
  破ったね。
  あなたの命
  もったいないね。

☆自分を振った相手を心配している(ように見せかけて呪っている)ような歌ですw
『大和物語』によると、その相手は藤原敦忠。百人一首43「逢ひ見ての~」の作者です。

39.浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき(参議等)

浅茅生(あさぢふ)
小野(をの)の篠原(しのはら)
忍ぶれど
あまりてなどか
人の恋しき

訳:堪え忍び
  隠して来たが
  溢れ出る。
  なぜこんなにも
  君が恋しい。

40.忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで(平兼盛)

忍ぶれど
色に出でにけり
わが恋は
ものや思ふと
人の問ふまで

訳:顔色に
  出てたのかしら?!
  友人に
  聞かれちゃったよ。
  「恋をしてるの?」

41~50

41.恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか(壬生忠見)

恋すてふ ※「てふ」は「ちょう」と読む
わが名はまだき
立ちにけり
人知れずこそ
思ひそめしか

訳:恋してる
  って私のうわさが
  あるみたい。
  みんなに内緒で
  想ってたのに。

42.契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは(清原元輔)

契りきな
かたみに袖を
しぼりつつ
末の松山
波越さじとは

訳:覚えてる?
  涙ながらに
  誓ったね。
  心変わりは
  ありえないって。

☆超有名でいろんな古文で引き歌や本歌取りされている「君をおきて あだし心を わが持たば 末の松山 波も越えなむ(あなたをさしおいて、他の人を思う浮気心を私が持つなんんてことがありましたなら、あの末の松山を波も越えてしまうことでしょう)」が元歌です。

元歌も31音口語訳を作ってみました。
君以外
愛するなんて
奥山を
波が超えちゃう
くらいに無いさ。

43.逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり(権中納言敦忠)

逢ひ見ての
のちの心に
くらぶれば
昔はものを
思はざりけり

訳:付き合った
  今と比べりゃ
  ゼロかもね。
  付き合う前の
  切なさ、つらさ。

44.逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし(中納言朝忠)

逢ふことの
絶えてしなくは
なかなかに
人をも身をも
恨みざらまし

訳:逢うチャンス
  ゼロになったら
  マシかもね。
  逢わない君を
  恨まずにすむ。

45.あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな(謙徳公)

あはれとも
いふべき人は
思ほえで
身のいたずらに
なりぬべきかな

訳:「大丈夫?」
  だと聞く人は
  いなさそう。
  あなたを慕い
  死んでしまいそう。

46.由良の門を渡る舟人かぢを絶え ゆくへも知らぬ恋のみちかな(曾禰好忠)

由良(ゆら)の門(と)
渡る舟人
かぢを絶え
ゆくへも知らぬ
恋のみちかな

訳:川中で
  梶(かじ)を落とした
  舟のよう。
  迷子になった
  恋の道だよ。

47.八重むぐら茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり(恵慶法師)

八重(やへ)むぐら
茂れる宿の
寂しきに
人こそ見えね
秋は来にけり

訳:雑草が
  しげる寂しい
  この宿に、
  人は来ないが
  秋は来たなぁ。

48.風をいたみ岩打つ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな(源重之)

風をいたみ
岩打つ波の
おのれのみ
くだけてものを
思ふころかな

訳:暴風で
  岩打つ波に
  似た恋だ。
  自分の心
  だけが粉々。

49.御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ(大中臣能宣朝臣)

御垣守(みかきもり)
衛士(ゑじ)のたく火の
夜は燃え
昼は消えつつ
ものをこそ思へ

訳:篝火(かがりび)
  ような恋情(れんじょう)
  夜は燃え、
  昼は消え入る
  ばかりに沈む。

50.君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな(藤原義孝)

君がため
惜しからざりし
命さへ
長くもがなと
思ひけるかな

訳:君のため
  惜しくなかった
  命でも、
  長くありたい。
  君といるため。

51~60

51.かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを(藤原実方朝臣)

かくとだに
えやは伊吹の
さしも草
さしも知らじな
燃ゆる思ひを

訳:こんなにも
  好きだとさえも
  言えないよ。
  知らないでしょう?
  燃える想いを。

52.明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな(藤原道信朝臣)

明けぬれば
暮るるものとは
知りながら
なほ恨めしき
朝ぼらけかな

訳:今夜にも
  会えるとわかって
  いるものの、
  君が出かける
  朝は悲しい。

53.嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る(右大将道綱母)

嘆きつつ
ひとり寝る夜(よ)
明くる間は
いかに久しき
ものとかは知る

訳:夜明けまで
  あなたを待って
  嘆いてる
  夜の長さを
  わかってますか?

54.忘れじのゆく末まではかたければ 今日を限りの命ともがな(儀同三司母)

忘れじの
ゆく末までは
かたければ
今日を限りの
命ともがな

訳:きっと無理。
  永遠(とわ)には愛して
  くれないね。
  失う前に
  死ぬのがいいわ。

55.滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ(大納言公任)

滝の音(おと)
絶えて久しく
なりぬれど
名こそ流れて
なほ聞こえけれ

訳:滝が絶え、
  音は長らく
  聞けないが、
  名声だけは
  今も聞こえる。

56.あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな(和泉式部)

あらざらむ
この世のほかの
思ひ出に
いまひとたびの
逢ふこともがな

訳:あの世へと
  旅立つ前の
  思い出に
  一目あなたに
  お会いしたいわ

☆病気で死が間近に迫ったときに詠んだ歌です。

57.めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな(紫式部)

めぐり逢ひて
見しやそれとも
(わ)かぬ間に
雲隠れにし
夜半(よは)の月かな

訳:再会し
  すぐに帰った
  友人は
  雲に隠れた
  月みたいだな

☆紫式部が父の赴任についていった越前にて、幼馴染の女の子と再会したのにすぐにその子が帰ってしまったことを惜しんで詠んだ歌です。

58.有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする(大弐三位)

有馬山
猪名(ゐな)の笹原
風吹けば
いでそよ人を
忘れやはする

訳:そよと吹く
  風の音(ね)のよう。
  そう、そうよ。
  忘れてるのは
  あなたの方よ。

59.やすらはで寝なましものをさ夜更けて かたぶくまでの月を見しかな(赤染衛門)

やすらはで
(な)なましものを
さ夜(よ)更けて
かたぶくまでの
月を見しかな

訳:躊躇(ためら)わず、
  寝ればよかった。
  夜が更けて、
  月が沈んで
  いくまで見てた。

60.大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立(小式部内侍)

大江山(おほえやま) ※「おほえ」は「おおえ」と読む
いく野の道の
遠ければ
まだふみも見ず
(あま)の橋立(はしだて)

訳:遠いから
  生野(いくの)に行かず
  踏み入れず。
  母からのふみ(=手紙)
  見ておりません!

☆母親が歌人として有名な和泉式部なので、「今度の歌会、お母さんに代作してもらうんでしょ?」とからかわれた際に、即興で詠んだ歌。
ちなみにからかったのは藤原定頼。百人一首64「朝ぼらけ~」の作者です。

61~70

61.いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな(伊勢大輔)

いにしへの
奈良の都の
八重桜(やへざくら)
けふ九重(ここのへ) ※「けふ」は「きょう」と読む
匂ひぬるかな

訳:古都(こと)である
  奈良で咲いてた
  八重桜。
  きょう、宮中で
  咲き誇ってる。

☆「きょう」は今日&京都(平安京)です。

62.夜をこめて鳥の空音は謀るとも よに逢坂の関は許さじ(清少納言)

(よ)をこめて
鳥の空音(そらね)
(はか)るとも
よに逢坂(あふさか)の
関は許さじ

訳:鶏(とり)真似で
  関所を開けた
  故事はあるが、
  私と逢う関
  開けてあげない。

63.今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな(左京大夫道雅)

今はただ
思ひ絶えなむ
とばかりを
人づてならで
いふよしもがな

訳:今はただ
  「諦めるよ」と
  それだけを、
  人づてじゃなく、
  君に言いたい。

☆内親王との恋をがばれて、彼女の父である三条天皇にその恋を禁じられたときに詠んでいます。

64.朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木(権中納言定頼)

朝ぼらけ
宇治の川霧(かはぎり)
※「かは」は「かわ」と読む
たえだえに 
あらはれわたる
瀬々(せぜ)の網代木(あじろぎ)

訳:朝靄(あさもや)
  絶え間に見える
  宇治川に
  仕掛けた網の
  魚獲る杭。

65.恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ(相模)

恨みわび
干さぬ袖だに
あるものを
恋に朽ちなむ
名こそ惜しけれ

訳:つれなさを
  恨み泣くさえ
  悔しいの。
  まして噂に
  なるの憂鬱(ゆううつ)

66.もろともにあはれと思え山桜 花よりほかに知る人もなし(前大僧正行尊)

もろともに
あはれと思え
山桜
花よりほかに
知る人もなし

訳:さあ共に、
  懐かしもうよ、
  山桜。
  君しか我の
  心を知らず。

67.春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ(周防内侍)

春の夜(よ)の 
夢ばかりなる
手枕(たまくら)
かひなく立たむ
名こそをしけれ

訳:春の夜の
  夢ほど儚い
  腕枕(うでまくら)
  噂がヤだから
  お借りしません!

68.心にもあらで憂き世に長らへば 恋しかるべき夜半の月かな(三条院)

心にも
あらで憂き世に
長らへば
恋しかるべき
夜半(よは)の月かな

訳:やむをえず、
  つらい世を生き
  続けたら、
  恋しくなりそう。
  今宵の月を。

69.嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり(能因法師)

嵐吹く
三室(みむろ)の山の
もみぢ葉(ば)
竜田(たつた)の川の
錦なりけり

訳:名の知れた
  もみじの山に
  風が吹き
  ふもとの川で
  錦織りなす

☆「三室の山」と表現された神南備山も、「竜田川」も、奈良県にある紅葉の名所です。

70.寂しさに宿を立ち出でてながむれば いづくも同じ秋の夕暮れ(良暹法師)

寂しさに
宿を立ち出(い)でて
ながむれば
いづくも同じ
秋の夕暮れ

訳:寂しくて
  庵(いおり)から出て
  見渡すと
  どこも寂しい
  秋の夕暮れ

71~80

71.夕されば門田の稲葉おとづれて 蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く(大納言経信)

夕されば
門田(かどた)の稲葉(いなば)
おとづれて
(あし)のまろ屋に
秋風ぞ吹く

訳:夕(ゆう)べには
  門前の稲も
  そよ吹きて
  茅葺(かやぶ)き小屋に
  秋風が吹く

☆「田家ノ秋風(でんかのしゅうふう)」というお題で詠まれた歌です。

72.音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ(祐子内親王家紀伊)

音に聞く
高師(たかし)の浜の
あだ波は
かけじや袖の
ぬれもこそすれ

訳:何股も
  かける人って
  聞いてるよ。
  だからスルーよ。
  泣きたくないもん。

☆「かけじや」は「波をかけまい」と「気にかけまい」の掛詞です。
 浮気な男の誘いを拒否ってます。

73.高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞立たずもあらなむ(前権中納言匡房)

高砂(たかさご)
尾の上(をのへ)の桜
 ※「をのへ」は「おのえ」と読む
咲きにけり
外山(とやま)の霞(かすみ)
立たずもあらなむ

訳:遥かなる
  山の頂(いただき)
  桜咲く。
  手前の山の
  霞よ立つな。

☆「遥かに山桜を望む」というお題で詠まれた歌です。「高砂」は山頂で、「外山」は人里近い、手前にある低い山。対になっています。
ちなみに作者の大江匡房(おおえのまさふさ)は『栄花物語』の作者とされる赤染衛門(←内助の功な女性)の曽孫(=ひまご)です。

74.憂かりける人を初瀬の山おろしよ 激しかれとは祈らぬものを(源俊頼朝臣)

(う)かりける
人を初瀬(はつせ)
山おろしよ
激しかれとは
祈らぬものを

訳:「なびいて」と
  祈りはしたが、
  山風の
  ように冷たく
  とは祈ってない!

75.契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり(藤原基俊)

(ちぎ)りおきし
させもが露(つゆ)
命にて
あはれ今年の
秋もいぬめり

訳:あれほどに、
  「頼みにせよ」と
  おっしゃれど、
  息子の任命
  この秋も無く。。。

☆息子を維摩会(ゆいまえ)の講師(こうじ)に任命してもらいたくて、任命者に頼んだら「頼りにしていいよ」的な返事をもらえたのに、約束を破られた悲しみを読んだ歌です。
その任命者である藤原忠通(ただみち)は百人一首76「わたの原~」の作者。この並び順にしたのは藤原定家の遊び心かなって邪推しちゃいますw

76.わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波(法性寺入道前関白太政大臣)

わたの原
(こ)ぎ出(い)でて見れば
ひさかたの
雲居(くもゐ)にまがふ
 ※「まがふ」は「まごう」と読む
沖つ白波(しらなみ)

訳:海原(うなばら)
  漕ぎ出て遠く
  目をやると
  混じる空・海、
  雲と白波。

☆雲と波に加えて、空と海の青さも渾然一体となっているのが素敵な歌です。

77.瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ(崇徳院)

瀬を早(はや)
岩にせかるる
滝川(たきがわ)
われても末(すゑ)
逢はむとぞ思ふ

訳:邪魔されて
  別れた川が
  一つへと
  合わさるように
  また結ばれよう!

78.淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守(源兼昌)

淡路島(あはぢしま)
通ふ千鳥の
鳴く声に
いく夜寝覚めぬ
須磨の関守(せきもり)

訳:淡路島を
  通う千鳥の
  鳴き声で
  何夜目覚めた?
  関所の人よ。

79.秋風にたなびく雲のたえ間より 漏れ出づる月の影のさやけさ(左京大夫顕輔)

秋風に
たなびく雲の
たえ間より
漏れ出づる月の
影のさやけさ

訳:秋風で
  横に流れる
  雲間から
  漏れさす月の
  光の清さ

☆「たなびく(棚引く)」は「薄く層をなした雲・霞などが横に長く漂う」こと。横長なので、棚の段のように見えますね。

80.ながからむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ(待賢門院堀河)

ながからむ
心も知らず
黒髪の
乱れてけさは
ものをこそ思へ

訳:「末長く
  愛す」と言われ
  「ほんとに?」と
  乱れる心、
  黒髪のよう。

☆逢瀬の後に「末永く愛すよ」という旨の後朝(きぬぎぬ)の歌をもらった後の返歌という趣向で詠んだ歌です。
 黒髪が乱れている理由はお察しください。

81~90

81.ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる(後徳大寺左大臣)

ほととぎす
鳴きつる方を
ながむれば
ただ有明の
月ぞ残れる

訳:ほととぎす
  鳴いたと思って
  目をやると
  夜明けの月が
  ぽつりと空に。

☆夏の到来を知らせるホトトギスの初音を聴くために、夜を明かして待つことも多かったようです。

82.思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり(道因法師)

思ひわび
さても命は
あるものを
(う)きに堪へぬは
涙なりけり

訳:悩んでも
  なぜか命は
  こぼれずに
  つらさに耐えず
  涙こぼれる

83.世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(皇太后宮大夫俊成)

世の中よ
道こそなけれ
思ひ入る
山の奥にも
鹿ぞ鳴くなる

訳:世を逃れ
  修行しに来た
  山奥も、
  哀愁(あいしゅう)誘う
  声で鹿鳴く。

☆作者である藤原俊成は小倉百人一首の編者、定家のお父さんです。

84.長らへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき(藤原清輔朝臣)

長らへば
またこのごろや
しのばれむ
(う)しと見し世ぞ
今は恋しき

訳:未来には
  また懐かしく
  思うかな?!
  苦悩の過去も
  今は恋しい。

☆「今どんなにつらくても、未来にはきっと良い思い出になる」と励ましてくれる歌です。

85.夜もすがらもの思ふころは明けやらで 閨のひまさへつれなかりけり(俊恵法師)

(よ)もすがら
もの思ふころは
明けやらで
(ねや)のひまさへ
つれなかりけり

訳:一晩中
  悩み、なかなか
  夜は明けず、
  ドアの隙間の
  闇(やみ)もつれない。

☆作者は男性ですが、女性の立場に立って詠んでいます。「閨(=寝室)のひま(隙間)」から恋人が入ってくる気配がなくて、つらいのでしょうね。

86.嘆けとて月やはものを思はする かこちがほなるわが涙かな(西行法師)

嘆けとて
月やはものを
思はする
かこちがほなる
わが涙かな

訳:「嘆け」とは
  月は言わない。
  言い訳さ。
  泣くのは月の
  せいだと言いたい。

87.村雨の露もまだ干ぬ槇の葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ(寂蓮法師)

村雨(むらさめ)
(つゆ)もまだ干ぬ
(まき)の葉に
霧立ちのぼる
秋の夕暮れ

訳:通り雨で
  まだ乾かない
  木々の葉に
  霧立ちのぼる
  秋の夕暮れ。

☆「槇」は杉・檜(ひのき)・槙(まき)のような常緑樹の総称です。深山の情景を詠んでいると思われ餡巣。

88.難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 身を尽くしてや恋ひわたるべき(皇嘉門院別当)

難波江(なにはえ)
(あし)のかりねの
ひとよゆゑ
身を尽くしてや
恋ひわたるべき

訳:ワンナイト。
  仮の彼女と
  なったから
  一心不乱に
  恋し続ける。

89.玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする(式子内親王)

玉の緒(を)
絶えなば絶えね
ながらへば
忍ぶることの
弱りもぞする

訳:我が命、
  無理なら絶えよ。
  生き延びて、
  この恋心
  漏れると困る。

90.見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず(殷富門院大輔)

見せばやな
雄島(をじま)の海人(あま)
袖だにも
濡れにぞ濡れし
色は変はらず

訳:お見せしたい。
  漁師でさえも
  濡れるだけ。
  私の袖は、
  濡れて血色に。

☆ちょっと怖いですが、漢詩文の影響で「血涙(紅涙)」と表現することで深い悲しみを表しています。

91~100

91.きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む(後京極摂政前太政大臣)

きりぎりす
鳴くや霜夜(しもよ)
さむしろに
衣かたしき
ひとりかも寝む

訳:コオロギが
  鳴く晩秋に
  霜おりて、
  寒い寝床で
  独り寝るのか。

☆作者の藤原良経はこの歌を詠む直前に妻に先立たれています。

92.わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾く間もなし(二条院讃岐)

わが袖は
潮干(しほひ)に見えぬ
沖の石の
人こそ知らね
乾く間もなし

訳:恋に泣き、
  袖も乾かぬ。
  潮引けど
  人に知られぬ
  沖の石だね。

93.世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも(鎌倉右大臣)

世の中は
常にもがもな
渚漕(こ)
海人(あま)の小舟(をぶね)
綱手(つなで)かなしも

訳:世の中の
  不変を願う。
  今・昔、
  漁師は舟で
  網を引いてる。

☆鎌倉幕府の三代将軍、源実朝(さねとも)が作者です。
こちらの記事で紹介している「河の上の斎つ岩群に草生さず 常にもがもな常乙女にて」の本歌取りです。

94.み吉野の山の秋風さ夜更けて ふるさと寒く衣打つなり(参議雅経)

み吉野の
山の秋風
さ夜(よ)更けて
ふるさと寒く
衣打つなり

訳:夜遅く
  衣のつやを
  出すために
  砧(きぬた)を打つよ。
  秋風の中。

95.おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣に墨染の袖(前大僧正慈円)

おほけなく
憂き世の民(たみ)
おほふかな
わが立つ杣(そま)
墨染(すみぞめ)の袖

訳:人々を、
  厚かましくも
  救いたい。
  比叡(ひえい)の山に
  来たばかりだが。

☆作者は史論『愚管抄(ぐかんしょう)』の作者でもあります。当時、悪疫の流行、飢饉、戦乱などにより多くの民が苦しんでいました。

96.花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり(入道前太政大臣)

花さそふ
嵐の庭の
雪ならで
ふりゆくものは
わが身なりけり

訳:庭で散る
  桜は雪が
  「降る」でなく、
  「古(ふる)」のは我だ。
  頭も白い。

97.来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ(権中納言定家)

(こ)ぬ人を
まつほの浦
の夕なぎに
焼くや藻塩(もしほ)
身もこがれつつ

訳:来(こ)ぬ人を
  待つ夕暮れに
  身を焦がし。
  松帆(まつほ)の浦の
  藻塩焼くよう。

☆「藻塩」は海藻に海水をそそぎ、焼いて水に溶かし、そのうわずみをとって煮つめた塩。

98.風そよぐ楢の小川の夕暮は 御禊ぞ夏のしるしなりける(従二位家隆)

風そよぐ
(なら)
小川の夕暮は
御禊(みそぎ)ぞ夏の
しるしなりける

訳:葉が風に
  そよぐ夕暮れ
  秋めいて、
  夏越(なご)しの祓え
  だけがまだ夏。

☆毎年六月末日に、宮中および各神社で行なわれる祓えの行事。半年間の穢れを祓う。

99.人も惜し人も恨めしあぢきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は(後鳥羽院)

人も惜(を)
人も恨めし
あぢきなく
世を思ふゆゑに
もの思ふ身は

訳:人のことを
  思うにつれて
  愛しくも
  恨めしくもある
  つらい立場だ

☆「惜(を)し」は「愛しい」の意味です。
初句と第二句目の「人」は同一人物という解釈も、別人であるという解釈もあります。

100.百敷や古き軒端のしのぶにも なほ余りある昔なりけり(順徳院)

百敷(ももしき)
古き軒端(のきば)
しのぶにも
なほ余りある
昔なりけり

訳:宮中(きゅうちゅう)
  草に衰微(すいび)
  見るにつけ、
  偲んでやまない
  聖帝(せいてい)の御代(みよ)。

☆「昔」とは延喜・天暦の治といわれる醍醐天皇・村上天皇の治世のことを指していると言われています。

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