百人一首を31音口語(現代語)訳
目次
- 31音(おん)口語訳とは
- 百人一首 各歌の詳細
- 百人一首とその31音口語訳の一覧
- 1~10
- 1.秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)
- 2.春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山(持統天皇)
- 3.あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂)
- 4.田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ(山部赤人)
- 5.奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき(猿丸大夫)
- 6.鵲の渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける(中納言家持)
- 7.天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも(安倍仲麿)
- 8.わが庵は都のたつみしかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり(喜撰法師)
- 9.花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(小野小町)
- 10.これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬもあふ坂の関(蝉丸)
- 11~20
- 11.わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣舟(参議篁)
- 12.天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍昭)
- 13.筑波嶺の峰より落つる男女川 恋ぞ積もりて淵となりぬる(陽成院)
- 14.陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに 乱れそめにしわれならなくに(河原左大臣)
- 15.君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ(光孝天皇)
- 16.立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む(中納言行平)
- 17.千早ぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)
- 18.住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ(藤原敏行朝臣)
- 19.難波潟短き蘆のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや(伊勢)
- 20.わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ(元良親王)
- 21~30
- 21.今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな(素性法師)
- 22.吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ(文屋康秀)
- 23.月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど(大江千里)
- 24.このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに(菅家)
- 25.名にし負はば逢坂山のさねかづら 人に知られで来るよしもがな(三条右大臣)
- 26.小倉山峰のもみぢ葉心あらば いまひとたびのみゆき待たなむ(貞信公)
- 27.みかの原わきて流るるいづみ川 いつ見きとてか恋しかるらむ(中納言兼輔)
- 28.山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば(源宗于朝臣)
- 29.心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花(凡河内躬恒)
- 30.有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし(壬生忠岑)
- 31~40
- 31.朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪(坂上是則)
- 32.山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり(春道列樹)
- 33.ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ(紀友則)
- 34.誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに(藤原興風)
- 35.人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける(紀貫之)
- 36.夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ(清原深養父)
- 37.白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける(文屋朝康)
- 38.忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな(右近)
- 39.浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき(参議等)
- 40.忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで(平兼盛)
- 41~50
- 41.恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか(壬生忠見)
- 42.契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは(清原元輔)
- 43.逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり(権中納言敦忠)
- 44.逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし(中納言朝忠)
- 45.あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな(謙徳公)
- 46.由良の門を渡る舟人かぢを絶え ゆくへも知らぬ恋のみちかな(曾禰好忠)
- 47.八重むぐら茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり(恵慶法師)
- 48.風をいたみ岩打つ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな(源重之)
- 49.御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ(大中臣能宣朝臣)
- 50.君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな(藤原義孝)
- 51~60
- 51.かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを(藤原実方朝臣)
- 52.明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな(藤原道信朝臣)
- 53.嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る(右大将道綱母)
- 54.忘れじのゆく末まではかたければ 今日を限りの命ともがな(儀同三司母)
- 55.滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ(大納言公任)
- 56.あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな(和泉式部)
- 57.めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな(紫式部)
- 58.有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする(大弐三位)
- 59.やすらはで寝なましものをさ夜更けて かたぶくまでの月を見しかな(赤染衛門)
- 60.大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立(小式部内侍)
- 61~70
- 61.いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな(伊勢大輔)
- 62.夜をこめて鳥の空音は謀るとも よに逢坂の関は許さじ(清少納言)
- 63.今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな(左京大夫道雅)
- 64.朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木(権中納言定頼)
- 65.恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ(相模)
- 66.もろともにあはれと思え山桜 花よりほかに知る人もなし(前大僧正行尊)
- 67.春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ(周防内侍)
- 68.心にもあらで憂き世に長らへば 恋しかるべき夜半の月かな(三条院)
- 69.嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり(能因法師)
- 70.寂しさに宿を立ち出でてながむれば いづくも同じ秋の夕暮れ(良暹法師)
- 71~80
- 71.夕されば門田の稲葉おとづれて 蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く(大納言経信)
- 72.音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ(祐子内親王家紀伊)
- 73.高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞立たずもあらなむ(前権中納言匡房)
- 74.憂かりける人を初瀬の山おろしよ 激しかれとは祈らぬものを(源俊頼朝臣)
- 75.契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり(藤原基俊)
- 76.わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波(法性寺入道前関白太政大臣)
- 77.瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ(崇徳院)
- 78.淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守(源兼昌)
- 79.秋風にたなびく雲のたえ間より 漏れ出づる月の影のさやけさ(左京大夫顕輔)
- 80.長からむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ(待賢門院堀河)
- 81~90
- 81.ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる(後徳大寺左大臣)
- 82.思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり(道因法師)
- 83.世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(皇太后宮大夫俊成)
- 84.長らへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき(藤原清輔朝臣)
- 85.夜もすがらもの思ふころは明けやらで 閨のひまさへつれなかりけり(俊恵法師)
- 86.嘆けとて月やはものを思はする かこちがほなるわが涙かな(西行法師)
- 87.村雨の露もまだ干ぬ槇の葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ(寂蓮法師)
- 88.難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 身を尽くしてや恋ひわたるべき(皇嘉門院別当)
- 89.玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする(式子内親王)
- 90.見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず(殷富門院大輔)
- 91~100
- 91.きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む(後京極摂政前太政大臣)
- 92.わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾く間もなし(二条院讃岐)
- 93.世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも(鎌倉右大臣)
- 94.み吉野の山の秋風さ夜更けて ふるさと寒く衣打つなり(参議雅経)
- 95.おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣に墨染の袖(前大僧正慈円)
- 96.花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり(入道前太政大臣)
- 97.来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ(権中納言定家)
- 98.風そよぐ楢の小川の夕暮は 御禊ぞ夏のしるしなりける(従二位家隆)
- 99.人も惜し人も恨めしあぢきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は(後鳥羽院)
- 100.百敷や古き軒端のしのぶにも なほ余りある昔なりけり(順徳院)
- 1~10
31音(おん)口語訳とは
和歌を味わうには、訳も五七五七七が良いと思っています。
5+7+5+7+7=31音です。
和歌は調(しら)べが命。
調べとはリズムのこと。
ぜひ31音口語訳を声に出して読んで、そのあとに元の和歌を声に出して読んでいただければと思います!
※元の歌を音読する際、「歴史的仮名遣い」の読み方にご注意ください。
「歴史的仮名遣いの読み方」についてまとめたページもご参照ください。
なお、たった31音にまとめるので、枕詞(まくらことば)や地名などの情報をそぎ落としています。
逆に、背景を知らないと理解しにくい歌には必要な要素を加えています。
また、できるだけ「口語」にした方が若い方にも伝わりやすいと思いまして、くだけた表現(超訳)にしています。
どうが「言葉の乱れ」だと目くじらを立てずに、ご容赦頂ければ幸いです。
☆でプチ解説も載せています。
百人一首 各歌の詳細
こちらでは、元の歌と31音口語訳だけを載せております。
正確な逐語訳や文法説明などを知りたい方は、インターネット上の検索すると出てきます。
個人的にオススメなのは和菓子屋 小倉山荘様のページです。
(お菓子も美味しくてオススメです)
もし本を買うなら文英堂の『原色小倉百人一首』がオススメです。
文法も背景も丁寧に解説されている上に、歌ごとの写真がとっても綺麗です。
百人一首とその31音口語訳の一覧
1~10
1.秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)
かりほの庵(いほ)の
苫(とま)をあらみ
わが衣手(ころもで)は
露(つゆ)にぬれつつ
夜通し守る
仮小屋の
屋根が粗くて
袖にも夜露(よつゆ)
☆元々は農民の歌だったのですが、民の苦労に寄り添う天皇の歌とされました。
2.春過ぎて夏来にけらし白妙の 衣干すてふ天の香具山(持統天皇)
夏来(き)にけらし
白妙(しろたへ)の
衣(ころも)干すてふ ※「てふ」は「ちょう」と読む。
天(あま)の香具山(かぐやま)
もう夏だよね!
真っ白な
シャツが洗って
干されているよ。
☆「天の香具山」は奈良県橿原(かしわら)市にある山。天(=高天原)から降った山だという言い伝えもあります。ダイナミックですね!
3.あしびきの山鳥の尾のしだり尾の ながながし夜をひとりかも寝む(柿本人麻呂)
山鳥(やまどり)の尾の
しだり尾の
ながながし夜を
ひとりかも寝む
夜は長いなぁ。
山に住む
鳥の尻尾の
ように長いよ。
☆この山鳥はキジ科の鳥で、昼は雌雄で一緒にいるけれど、夜は別々に寝るとされています。平安時代の「通い婚」は夜だけ男女が一緒なので、真逆ですね!
4.田子の浦にうち出でて見れば白妙の 富士の高嶺に雪は降りつつ(山部赤人)
うち出(い)でて見れば
白妙(しろたへ)の
富士の高嶺(たかね)に
雪は降りつつ
海岸に立ち
富士山を
見上げてみると
雪が降ってる
☆距離的にかなり離れているので、雪が「積もった」状態しか見えない。「降っている」は想像。もし本当に見えていたら、想像を絶する視力ですw
5.奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の 声聞く時ぞ秋は悲しき(猿丸大夫)
紅葉踏み分け
鳴く鹿の
声聞く時ぞ
秋は悲しき
紅葉の道で
鹿の鳴く
声が聞こえる
秋は悲しい
☆せっかくなので、雄鹿の鳴き声をYouTubeで調べてみました。雄鹿の鳴き声 まとめ
6.鵲の渡せる橋に置く霜の 白きを見れば夜ぞ更けにける(中納言家持)
渡せる橋に
置く霜の
白きを見れば
夜ぞ更けにける
鵲のようだ。
階段に
霜が降りてる
夜更けになった。
☆宮中の御階(みはし、=階段)に霜がかかっているのを、七夕に織姫と彦星が会うためのカササギの橋になぞらえている歌です。
7.天の原ふりさけ見れば春日なる 三笠の山に出でし月かも(安倍仲麿)
ふりさけ見れば
春日なる
三笠の山に
出(い)でし月かも
彼方を見れば
ふるさとで
見ていた月が
ここでも見える
8.わが庵は都のたつみしかぞ住む 世をうぢ山と人はいふなり(喜撰法師)
都のたつみ
しかぞ住む
世をうぢ山と
人はいふなり
宇治山暮らしを
人々は
世を憂いての
隠居と見なす
9.花の色は移りにけりないたづらに わが身世にふるながめせしまに(小野小町)
移りにけりな
いたづらに
わが身世にふる
ながめせしまに
ぼーっとしてたら
あっけなく
花も私も
色あせちゃった
10.これやこの行くも帰るも別れては 知るも知らぬもあふ坂の関(蝉丸)
行くも帰るも
別れては
知るも知らぬも
あふ坂の関
出会いと別れの
人生の
縮図のような
逢坂の関
11~20
11.わたの原八十島かけて漕ぎ出でぬと 人には告げよ海人の釣舟(参議篁)
八十島(やそしま)かけて
漕(こ)ぎ出でぬと
人には告げよ
海人(あま)の釣舟(つりぶね)
我は流刑(るけい)で
漕ぎ出たと
京の人らに
伝えておくれ
12.天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ 乙女の姿しばしとどめむ(僧正遍昭)
雲の通ひ路(ぢ)
吹きとぢよ
乙女の姿
しばしとどめむ
道を閉ざせよ。
舞姫の
天女を空に
帰らせないよう。
13.筑波嶺の峰より落つる男女川 恋ぞ積もりて淵となりぬる(陽成院)
峰より落つる
男女川(みなのがは)
恋ぞ積もりて
淵(ふち)となりぬる
下るにつれて
この恋も
積もり積もって
もう溺れそう
14.陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに 乱れそめにしわれならなくに(河原左大臣)
しのぶもぢずり
誰(たれ)ゆゑに
乱れそめにし
われならなくに
私じゃないわ。
このハートを
乱れ模様に
染めた犯人。
15.君がため春の野に出でて若菜摘む わが衣手に雪は降りつつ(光孝天皇)
春の野に出でて
若菜摘(つ)む
わが衣手(ころもで)に
雪は降りつつ
邪気を祓える
春の菜を
雪降り続く
野で摘んでいる
16.立ち別れいなばの山の峰に生ふる まつとし聞かば今帰り来む(中納言行平)
いなばの山の
峰に生(お)ふる
まつとし聞かば
今帰り来(こ)む
因幡に行くが、
「戻って」と
聞いたらすぐに
帰ってこよう。
17.千早ぶる神代も聞かず竜田川 からくれなゐに水くくるとは(在原業平朝臣)
神代(かみよ)も聞かず
竜田川
からくれなゐに
水くくるとは
聞かない不思議。
竜田川が
紅(くれない)色に
水を染めてる。
☆「水くくる」は「水をくくり染め(しぼり染め)する」の意味。川を擬人化してますね!
18.住の江の岸に寄る波よるさへや 夢の通ひ路人目よくらむ(藤原敏行朝臣)
岸に寄る波
よるさへや
夢の通ひ路(ぢ)
人目(ひとめ)よくらむ
あなたは通って
こないのね。
人目を避けて
いるのでしょうか?
19.難波潟短き蘆のふしの間も 逢はでこの世を過ぐしてよとや(伊勢)
短き蘆(あし)の
ふしの間も
逢はでこの世を
過ぐしてよとや
過ごせと言うの?!
ごく短い
イネ科の葦(あし)の
節(ふし)の間(ま)ほども
20.わびぬれば今はたおなじ難波なる みをつくしても逢はむとぞ思ふ(元良親王)
今はたおなじ
難波(なには)なる
みをつくしても
逢はむとぞ思ふ
どうしようもない。
もうままよ!
身が滅ぼうと
あなたに逢おう。
☆ここでの「わびぬる(困った)」事情は、実は女御(天皇の妻)との不倫の発覚です。
21~30
21.今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな(素性法師)
いひしばかりに
長月の
有明の月を
待ち出でつるかな
あなたが言った
秋の夜。
夜明けの月が
先に来ちゃった。
22.吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ(文屋康秀)
秋の草木の
しをるれば
むべ山風を
あらしといふらむ
秋の草木が
枯れるから
荒らす山風
嵐と言うのか
☆「荒らし」「嵐」の掛詞です。アイドル嵐の「COOL&SOUL 」という歌にも「山 風 合わせ巻き起こると皆大慌」という歌詞があります♪
23.月見ればちぢにものこそ悲しけれ わが身ひとつの秋にはあらねど(大江千里)
ちぢにものこそ
悲しけれ
わが身ひとつの
秋にはあらねど
千の悩みで
鬱になる。
一人にだけ来た
秋じゃないけど。
☆「千々(ちぢ)」と「一つ」の対比です。白居易の漢詩をもとに詠んだ歌です。
24.このたびは幣も取りあへず手向山 紅葉の錦神のまにまに(菅家)
幣(ぬさ)も取りあへず
手向山(たむけやま)
紅葉(もみぢ)の錦
神のまにまに
錦が見劣り
するほどだ。
紅葉の錦を
神様どうぞ。
25.名にし負はば逢坂山のさねかづら 人に知られで来るよしもがな(三条右大臣)
逢坂山(あふさかやま)の
さねかづら
人に知られで
来るよしもがな
「寝(ね)」の字ある蔓(つる)
手繰り寄せ
人に知られず
君と会いたい
☆「名にし負はば(何もっているのなら)」の「名」は逢坂山(あふさかやま)のさねかづらの「逢う」と「寝」。
結句の「くる」は「繰る(手繰り寄せる)」と「来る(会いに行く)」の掛詞です。
26.小倉山峰のもみぢ葉心あらば いまひとたびのみゆき待たなむ(貞信公)
峰のもみぢ葉(ば)
心あらば
いまひとたびの
みゆき待たなむ
紅葉よ。心が
あるならば、
次の行幸
まで散らないで。
☆2つの解釈がある歌です。詳細はこちらのページに。
27.みかの原わきて流るるいづみ川 いつ見きとてか恋しかるらむ(中納言兼輔)
わきて流るる
いづみ川
いつ見きとてか
恋しかるらむ
ように湧き出た
恋心。
あの方の顔
いつ見たんだろ。
☆「泉川」と「いつ見た」で同音反復させている歌なので、「いずみ川」は歴史的仮名遣いの「いづみ川」にしています。
28.山里は冬ぞ寂しさまさりける 人目も草もかれぬと思へば(源宗于朝臣)
冬ぞ寂しさ
まさりける
人目も草も
かれぬと思へば
冬に寂しさ
まさるなあ。
人も来ないし
草も枯れちゃう。
☆人目が「離(か)る」で人の訪れがなくなる(間遠になる)の意味です。
29.心あてに折らばや折らむ初霜の 置きまどはせる白菊の花(凡河内躬恒)
折らばや折らむ
初霜(はつしも)の
置きまどはせる
白菊(しらぎく)の花
折ろうとしても
白菊は
初霜のなか
見分けられない
☆初霜の白さが白菊の純白を引き立てています。
30.有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし(壬生忠岑)
つれなく見えし
別れより
暁ばかり
憂きものはなし
夜明けの月も
冷淡で、
夜明けが一番
嫌いになった。
☆失恋を引きずっている歌です。
31~40
31.朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪(坂上是則)
有明の月と
見るまでに
吉野の里に
降れる白雪
輝く吉野に
ほの白(じろ)く
降る白雪は
月光のよう。
☆雪を花に、花を雪に喩えるように、月光の白さを雪や霜に、雪や霜を月光の白さに喩えることもあるんです。
32.山川に風のかけたるしがらみは 流れもあへぬ紅葉なりけり(春道列樹)
風のかけたる
しがらみは
流れもあへぬ
紅葉なりけり
緩やかにする
柵(しがらみ)は
紅葉散らした
風のいたずら。
☆風を擬人化している歌なので、思い切って「風のいたずら」にしました。
33.ひさかたの光のどけき春の日に しづ心なく花の散るらむ(紀友則)
光のどけき
春の日に
しづ心なく
花の散るらむ
桜に宿る
妖精は
なぜにこんなにも
慌てん坊か
34.誰をかも知る人にせむ高砂の 松も昔の友ならなくに(藤原興風)
知る人にせむ
高砂の
松も昔の友
ならなくに
松は長寿だ。
旧友も
長く生きてて
欲しかったなぁ。
35.人はいさ心も知らずふるさとは 花ぞ昔の香に匂ひける(紀貫之)
心も知らず
ふるさとは
花ぞ昔の
香(か)に匂ひける
心の変化は
知らないが、
梅の香りは
昔と同じ。
36.夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ(清原深養父)
まだ宵(よひ)ながら
明けぬるを
雲のいづこに
月宿るらむ
夕暮れのまま
朝が来た。
月は落ちずに
雲の後ろか。
37.白露に風の吹きしく秋の野は つらぬきとめぬ玉ぞ散りける(文屋朝康)
風の吹きしく
秋の野は
つらぬきとめぬ
玉ぞ散りける
露が舞い散る
のはまるで
ネックレスから
逃げてくパール
38.忘らるる身をば思はず誓ひてし 人の命の惜しくもあるかな(右近)
身をば思はず
誓ひてし
人の命の
惜しくもあるかな
誓った愛を
破ったね。
あなたの命
もったいないね。
☆自分を振った相手を心配している(ように見せかけて呪っている)ような歌ですw
『大和物語』によると、その相手は藤原敦忠。百人一首43「逢ひ見ての~」の作者です。
39.浅茅生の小野の篠原忍ぶれど あまりてなどか人の恋しき(参議等)
小野(をの)の篠原(しのはら)
忍ぶれど
あまりてなどか
人の恋しき
隠して来たが
溢れ出る。
なぜこんなにも
君が恋しい。
40.忍ぶれど色に出でにけりわが恋は ものや思ふと人の問ふまで(平兼盛)
色に出でにけり
わが恋は
ものや思ふと
人の問ふまで
出てたのかしら?!
友人に
聞かれちゃったよ。
「恋をしてるの?」
41~50
41.恋すてふわが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか(壬生忠見)
わが名はまだき
立ちにけり
人知れずこそ
思ひそめしか
って私のうわさが
あるみたい。
みんなに内緒で
想ってたのに。
42.契りきなかたみに袖をしぼりつつ 末の松山波越さじとは(清原元輔)
かたみに袖を
しぼりつつ
末の松山
波越さじとは
涙ながらに
誓ったね。
心変わりは
ありえないって。
君以外
愛するなんて
奥山を
波が超えちゃう
くらいに無いさ。
43.逢ひ見てののちの心にくらぶれば 昔はものを思はざりけり(権中納言敦忠)
のちの心に
くらぶれば
昔はものを
思はざりけり
今と比べりゃ
ゼロかもね。
付き合う前の
切なさ、つらさ。
44.逢ふことの絶えてしなくはなかなかに 人をも身をも恨みざらまし(中納言朝忠)
絶えてしなくは
なかなかに
人をも身をも
恨みざらまし
ゼロになったら
マシかもね。
逢わない君を
恨まずにすむ。
45.あはれともいふべき人は思ほえで 身のいたずらになりぬべきかな(謙徳公)
いふべき人は
思ほえで
身のいたずらに
なりぬべきかな
だと聞く人は
いなさそう。
あなたを慕い
死んでしまいそう。
46.由良の門を渡る舟人かぢを絶え ゆくへも知らぬ恋のみちかな(曾禰好忠)
渡る舟人
かぢを絶え
ゆくへも知らぬ
恋のみちかな
梶(かじ)を落とした
舟のよう。
迷子になった
恋の道だよ。
47.八重むぐら茂れる宿の寂しきに 人こそ見えね秋は来にけり(恵慶法師)
茂れる宿の
寂しきに
人こそ見えね
秋は来にけり
しげる寂しい
この宿に、
人は来ないが
秋は来たなぁ。
48.風をいたみ岩打つ波のおのれのみ くだけてものを思ふころかな(源重之)
岩打つ波の
おのれのみ
くだけてものを
思ふころかな
岩打つ波に
似た恋だ。
自分の心
だけが粉々。
49.御垣守衛士のたく火の夜は燃え 昼は消えつつものをこそ思へ(大中臣能宣朝臣)
衛士(ゑじ)のたく火の
夜は燃え
昼は消えつつ
ものをこそ思へ
ような恋情(れんじょう)。
夜は燃え、
昼は消え入る
ばかりに沈む。
50.君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな(藤原義孝)
惜しからざりし
命さへ
長くもがなと
思ひけるかな
惜しくなかった
命でも、
長くありたい。
君といるため。
51~60
51.かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを(藤原実方朝臣)
えやは伊吹の
さしも草
さしも知らじな
燃ゆる思ひを
好きだとさえも
言えないよ。
知らないでしょう?
燃える想いを。
52.明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな(藤原道信朝臣)
暮るるものとは
知りながら
なほ恨めしき
朝ぼらけかな
会えるとわかって
いるものの、
君が出かける
朝は悲しい。
53.嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る(右大将道綱母)
ひとり寝る夜(よ)の
明くる間は
いかに久しき
ものとかは知る
あなたを待って
嘆いてる
夜の長さを
わかってますか?
54.忘れじのゆく末まではかたければ 今日を限りの命ともがな(儀同三司母)
ゆく末までは
かたければ
今日を限りの
命ともがな
永遠(とわ)には愛して
くれないね。
失う前に
死ぬのがいいわ。
55.滝の音は絶えて久しくなりぬれど 名こそ流れてなほ聞こえけれ(大納言公任)
絶えて久しく
なりぬれど
名こそ流れて
なほ聞こえけれ
音は長らく
聞けないが、
名声だけは
今も聞こえる。
56.あらざらむこの世のほかの思ひ出に いまひとたびの逢ふこともがな(和泉式部)
この世のほかの
思ひ出に
いまひとたびの
逢ふこともがな
旅立つ前の
思い出に
一目あなたに
お会いしたいわ
☆病気で死が間近に迫ったときに詠んだ歌です。
57.めぐり逢ひて見しやそれとも分かぬ間に 雲隠れにし夜半の月かな(紫式部)
見しやそれとも
分(わ)かぬ間に
雲隠れにし
夜半(よは)の月かな
すぐに帰った
友人は
雲に隠れた
月みたいだな
☆紫式部が父の赴任についていった越前にて、幼馴染の女の子と再会したのにすぐにその子が帰ってしまったことを惜しんで詠んだ歌です。
58.有馬山猪名の笹原風吹けば いでそよ人を忘れやはする(大弐三位)
猪名(ゐな)の笹原
風吹けば
いでそよ人を
忘れやはする
風の音(ね)のよう。
そう、そうよ。
忘れてるのは
あなたの方よ。
59.やすらはで寝なましものをさ夜更けて かたぶくまでの月を見しかな(赤染衛門)
寝(な)なましものを
さ夜(よ)更けて
かたぶくまでの
月を見しかな
寝ればよかった。
夜が更けて、
月が沈んで
いくまで見てた。
60.大江山いく野の道の遠ければ まだふみも見ず天の橋立(小式部内侍)
いく野の道の
遠ければ
まだふみも見ず
天(あま)の橋立(はしだて)
生野(いくの)に行かず
踏み入れず。
母からのふみ(=手紙)
見ておりません!
☆母親が歌人として有名な和泉式部なので、「今度の歌会、お母さんに代作してもらうんでしょ?」とからかわれた際に、即興で詠んだ歌。
ちなみにからかったのは藤原定頼。百人一首64「朝ぼらけ~」の作者です。
61~70
61.いにしへの奈良の都の八重桜 けふ九重に匂ひぬるかな(伊勢大輔)
奈良の都の
八重桜(やへざくら)
けふ九重(ここのへ)に ※「けふ」は「きょう」と読む
匂ひぬるかな
奈良で咲いてた
八重桜。
きょう、宮中で
咲き誇ってる。
☆「きょう」は今日&京都(平安京)です。
62.夜をこめて鳥の空音は謀るとも よに逢坂の関は許さじ(清少納言)
鳥の空音(そらね)は
謀(はか)るとも
よに逢坂(あふさか)の
関は許さじ
関所を開けた
故事はあるが、
私と逢う関
開けてあげない。
63.今はただ思ひ絶えなむとばかりを 人づてならでいふよしもがな(左京大夫道雅)
思ひ絶えなむ
とばかりを
人づてならで
いふよしもがな
「諦めるよ」と
それだけを、
人づてじゃなく、
君に言いたい。
☆内親王との恋をがばれて、彼女の父である三条天皇にその恋を禁じられたときに詠んでいます。
64.朝ぼらけ宇治の川霧たえだえに あらはれわたる瀬々の網代木(権中納言定頼)
宇治の川霧(かはぎり)※「かは」は「かわ」と読む
たえだえに
あらはれわたる
瀬々(せぜ)の網代木(あじろぎ)
絶え間に見える
宇治川に
仕掛けた網の
魚獲る杭。
65.恨みわび干さぬ袖だにあるものを 恋に朽ちなむ名こそ惜しけれ(相模)
干さぬ袖だに
あるものを
恋に朽ちなむ
名こそ惜しけれ
恨み泣くさえ
悔しいの。
まして噂に
なるの憂鬱(ゆううつ)。
66.もろともにあはれと思え山桜 花よりほかに知る人もなし(前大僧正行尊)
あはれと思え
山桜
花よりほかに
知る人もなし
懐かしもうよ、
山桜。
君しか我の
心を知らず。
67.春の夜の夢ばかりなる手枕に かひなく立たむ名こそをしけれ(周防内侍)
夢ばかりなる
手枕(たまくら)に
かひなく立たむ
名こそをしけれ
夢ほど儚い
腕枕(うでまくら)。
噂がヤだから
お借りしません!
68.心にもあらで憂き世に長らへば 恋しかるべき夜半の月かな(三条院)
あらで憂き世に
長らへば
恋しかるべき
夜半(よは)の月かな
つらい世を生き
続けたら、
恋しくなりそう。
今宵の月を。
69.嵐吹く三室の山のもみぢ葉は 竜田の川の錦なりけり(能因法師)
三室(みむろ)の山の
もみぢ葉(ば)は
竜田(たつた)の川の
錦なりけり
もみじの山に
風が吹き
ふもとの川で
錦織りなす
☆「三室の山」と表現された神南備山も、「竜田川」も、奈良県にある紅葉の名所です。
70.寂しさに宿を立ち出でてながむれば いづくも同じ秋の夕暮れ(良暹法師)
宿を立ち出(い)でて
ながむれば
いづくも同じ
秋の夕暮れ
庵(いおり)から出て
見渡すと
どこも寂しい
秋の夕暮れ
71~80
71.夕されば門田の稲葉おとづれて 蘆のまろ屋に秋風ぞ吹く(大納言経信)
門田(かどた)の稲葉(いなば)
おとづれて
蘆(あし)のまろ屋に
秋風ぞ吹く
門前の稲も
そよ吹きて
茅葺(かやぶ)き小屋に
秋風が吹く
☆「田家ノ秋風(でんかのしゅうふう)」というお題で詠まれた歌です。
72.音に聞く高師の浜のあだ波は かけじや袖のぬれもこそすれ(祐子内親王家紀伊)
高師(たかし)の浜の
あだ波は
かけじや袖の
ぬれもこそすれ
かける人って
聞いてるよ。
だからスルーよ。
泣きたくないもん。
☆「かけじや」は「波をかけまい」と「気にかけまい」の掛詞です。
浮気な男の誘いを拒否ってます。
73.高砂の尾の上の桜咲きにけり 外山の霞立たずもあらなむ(前権中納言匡房)
尾の上(をのへ)の桜 ※「をのへ」は「おのえ」と読む
咲きにけり
外山(とやま)の霞(かすみ)
立たずもあらなむ
山の頂(いただき)
桜咲く。
手前の山の
霞よ立つな。
☆「遥かに山桜を望む」というお題で詠まれた歌です。「高砂」は山頂で、「外山」は人里近い、手前にある低い山。対になっています。
ちなみに作者の大江匡房(おおえのまさふさ)は『栄花物語』の作者とされる赤染衛門(←内助の功な女性)の曽孫(=ひまご)です。
74.憂かりける人を初瀬の山おろしよ 激しかれとは祈らぬものを(源俊頼朝臣)
人を初瀬(はつせ)の
山おろしよ
激しかれとは
祈らぬものを
祈りはしたが、
山風の
ように冷たく
とは祈ってない!
75.契りおきしさせもが露を命にて あはれ今年の秋もいぬめり(藤原基俊)
させもが露(つゆ)を
命にて
あはれ今年の
秋もいぬめり
「頼みにせよ」と
おっしゃれど、
息子の任命
この秋も無く。。。
☆息子を維摩会(ゆいまえ)の講師(こうじ)に任命してもらいたくて、任命者に頼んだら「頼りにしていいよ」的な返事をもらえたのに、約束を破られた悲しみを読んだ歌です。
その任命者である藤原忠通(ただみち)は百人一首76「わたの原~」の作者。この並び順にしたのは藤原定家の遊び心かなって邪推しちゃいますw
76.わたの原漕ぎ出でて見ればひさかたの 雲居にまがふ沖つ白波(法性寺入道前関白太政大臣)
漕(こ)ぎ出(い)でて見れば
ひさかたの
雲居(くもゐ)にまがふ ※「まがふ」は「まごう」と読む
沖つ白波(しらなみ)
漕ぎ出て遠く
目をやると
混じる空・海、
雲と白波。
☆雲と波に加えて、空と海の青さも渾然一体となっているのが素敵な歌です。
77.瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ(崇徳院)
岩にせかるる
滝川(たきがわ)の
われても末(すゑ)に
逢はむとぞ思ふ
別れた川が
一つへと
合わさるように
また結ばれよう!
78.淡路島通ふ千鳥の鳴く声に いく夜寝覚めぬ須磨の関守(源兼昌)
通ふ千鳥の
鳴く声に
いく夜寝覚めぬ
須磨の関守(せきもり)
通う千鳥の
鳴き声で
何夜目覚めた?
関所の人よ。
79.秋風にたなびく雲のたえ間より 漏れ出づる月の影のさやけさ(左京大夫顕輔)
たなびく雲の
たえ間より
漏れ出づる月の
影のさやけさ
横に流れる
雲間から
漏れさす月の
光の清さ
☆「たなびく(棚引く)」は「薄く層をなした雲・霞などが横に長く漂う」こと。横長なので、棚の段のように見えますね。
80.長からむ心も知らず黒髪の 乱れてけさはものをこそ思へ(待賢門院堀河)
心も知らず
黒髪の
乱れてけさは
ものをこそ思へ
愛す」と言われ
「ほんとに?」と
乱れる心、
黒髪のよう。
☆逢瀬の後に「末永く愛すよ」という旨の後朝(きぬぎぬ)の歌をもらった後の返歌という趣向で詠んだ歌です。
黒髪が乱れている理由はお察しください。
81~90
81.ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる(後徳大寺左大臣)
鳴きつる方を
ながむれば
ただ有明の
月ぞ残れる
鳴いたと思って
目をやると
夜明けの月が
ぽつりと空に。
☆夏の到来を知らせるホトトギスの初音を聴くために、夜を明かして待つことも多かったようです。
82.思ひわびさても命はあるものを 憂きに堪へぬは涙なりけり(道因法師)
さても命は
あるものを
憂(う)きに堪へぬは
涙なりけり
なぜか命は
こぼれずに
つらさに耐えず
涙こぼれる
83.世の中よ道こそなけれ思ひ入る 山の奥にも鹿ぞ鳴くなる(皇太后宮大夫俊成)
道こそなけれ
思ひ入る
山の奥にも
鹿ぞ鳴くなる
修行しに来た
山奥も、
哀愁(あいしゅう)誘う
声で鹿鳴く。
☆作者である藤原俊成は小倉百人一首の編者、定家のお父さんです。
84.長らへばまたこのごろやしのばれむ 憂しと見し世ぞ今は恋しき(藤原清輔朝臣)
またこのごろや
しのばれむ
憂(う)しと見し世ぞ
今は恋しき
また懐かしく
思うかな?!
苦悩の過去も
今は恋しい。
☆「今どんなにつらくても、未来にはきっと良い思い出になる」と励ましてくれる歌です。
85.夜もすがらもの思ふころは明けやらで 閨のひまさへつれなかりけり(俊恵法師)
もの思ふころは
明けやらで
閨(ねや)のひまさへ
つれなかりけり
悩み、なかなか
夜は明けず、
ドアの隙間の
闇(やみ)もつれない。
☆作者は男性ですが、女性の立場に立って詠んでいます。「閨(=寝室)のひま(隙間)」から恋人が入ってくる気配がなくて、つらいのでしょうね。
86.嘆けとて月やはものを思はする かこちがほなるわが涙かな(西行法師)
月やはものを
思はする
かこちがほなる
わが涙かな
月は言わない。
言い訳さ。
泣くのは月の
せいだと言いたい。
87.村雨の露もまだ干ぬ槇の葉に 霧立ちのぼる秋の夕暮れ(寂蓮法師)
露(つゆ)もまだ干ぬ
槇(まき)の葉に
霧立ちのぼる
秋の夕暮れ
まだ乾かない
木々の葉に
霧立ちのぼる
秋の夕暮れ。
☆「槇」は杉・檜(ひのき)・槙(まき)のような常緑樹の総称です。深山の情景を詠んでいると思われ餡巣。
88.難波江の蘆のかりねのひとよゆゑ 身を尽くしてや恋ひわたるべき(皇嘉門院別当)
蘆(あし)のかりねの
ひとよゆゑ
身を尽くしてや
恋ひわたるべき
仮の彼女と
なったから
一心不乱に
恋し続ける。
89.玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする(式子内親王)
絶えなば絶えね
ながらへば
忍ぶることの
弱りもぞする
無理なら絶えよ。
生き延びて、
この恋心
漏れると困る。
90.見せばやな雄島の海人の袖だにも 濡れにぞ濡れし色は変はらず(殷富門院大輔)
雄島(をじま)の海人(あま)の
袖だにも
濡れにぞ濡れし
色は変はらず
漁師でさえも
濡れるだけ。
私の袖は、
濡れて血色に。
☆ちょっと怖いですが、漢詩文の影響で「血涙(紅涙)」と表現することで深い悲しみを表しています。
91~100
91.きりぎりす鳴くや霜夜のさむしろに 衣かたしきひとりかも寝む(後京極摂政前太政大臣)
鳴くや霜夜(しもよ)の
さむしろに
衣かたしき
ひとりかも寝む
鳴く晩秋に
霜おりて、
寒い寝床で
独り寝るのか。
☆作者の藤原良経はこの歌を詠む直前に妻に先立たれています。
92.わが袖は潮干に見えぬ沖の石の 人こそ知らね乾く間もなし(二条院讃岐)
潮干(しほひ)に見えぬ
沖の石の
人こそ知らね
乾く間もなし
袖も乾かぬ。
潮引けど
人に知られぬ
沖の石だね。
93.世の中は常にもがもな渚漕ぐ 海人の小舟の綱手かなしも(鎌倉右大臣)
常にもがもな
渚漕(こ)ぐ
海人(あま)の小舟(をぶね)の
綱手(つなで)かなしも
不変を願う。
今・昔、
漁師は舟で
網を引いてる。
☆鎌倉幕府の三代将軍、源実朝(さねとも)が作者です。
こちらの記事で紹介している「河の上の斎つ岩群に草生さず 常にもがもな常乙女にて」の本歌取りです。
94.み吉野の山の秋風さ夜更けて ふるさと寒く衣打つなり(参議雅経)
山の秋風
さ夜(よ)更けて
ふるさと寒く
衣打つなり
衣のつやを
出すために
砧(きぬた)を打つよ。
秋風の中。
95.おほけなく憂き世の民におほふかな わが立つ杣に墨染の袖(前大僧正慈円)
憂き世の民(たみ)に
おほふかな
わが立つ杣(そま)に
墨染(すみぞめ)の袖
厚かましくも
救いたい。
比叡(ひえい)の山に
来たばかりだが。
☆作者は史論『愚管抄(ぐかんしょう)』の作者でもあります。当時、悪疫の流行、飢饉、戦乱などにより多くの民が苦しんでいました。
96.花さそふ嵐の庭の雪ならで ふりゆくものはわが身なりけり(入道前太政大臣)
嵐の庭の
雪ならで
ふりゆくものは
わが身なりけり
桜は雪が
「降る」でなく、
「古(ふる)」のは我だ。
頭も白い。
97.来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに 焼くや藻塩の身もこがれつつ(権中納言定家)
まつほの浦
の夕なぎに
焼くや藻塩(もしほ)の
身もこがれつつ
待つ夕暮れに
身を焦がし。
松帆(まつほ)の浦の
藻塩焼くよう。
☆「藻塩」は海藻に海水をそそぎ、焼いて水に溶かし、そのうわずみをとって煮つめた塩。
98.風そよぐ楢の小川の夕暮は 御禊ぞ夏のしるしなりける(従二位家隆)
楢(なら)の
小川の夕暮は
御禊(みそぎ)ぞ夏の
しるしなりける
そよぐ夕暮れ
秋めいて、
夏越(なご)しの祓え
だけがまだ夏。
☆毎年六月末日に、宮中および各神社で行なわれる祓えの行事。半年間の穢れを祓う。
99.人も惜し人も恨めしあぢきなく 世を思ふゆゑにもの思ふ身は(後鳥羽院)
人も恨めし
あぢきなく
世を思ふゆゑに
もの思ふ身は
思うにつれて
愛しくも
恨めしくもある
つらい立場だ
☆「惜(を)し」は「愛しい」の意味です。
初句と第二句目の「人」は同一人物という解釈も、別人であるという解釈もあります。
100.百敷や古き軒端のしのぶにも なほ余りある昔なりけり(順徳院)
古き軒端(のきば)の
しのぶにも
なほ余りある
昔なりけり
草に衰微(すいび)を
見るにつけ、
偲んでやまない
聖帝(せいてい)の御代(みよ)。
☆「昔」とは延喜・天暦の治といわれる醍醐天皇・村上天皇の治世のことを指していると言われています。
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