上皇后陛下の御歌 子に告げぬ哀しみもあらむを柞葉の母清やかに老い給ひけり
5月の「母の日」に向けて、ご紹介したい和歌です。
昭和53年の歌会始のお題は「母」でした。
その際の歌の中で、当時皇太子妃であらせられた上皇后陛下の御歌に大変感銘を受けました。
子に告げぬ
哀しみもあらむを
柞葉の
母清やかに
老い給ひけり
現代語訳
子ども(である私)に伝え(てい)ない哀しみもあるだろうに、母はすがすがしく(生きて)、お年を召しなさったなあ。
古典文法・古文単語解説
(告げ)ぬ
打消し(~ない)の助動詞「ず」の連体形
(あら)む
推量(~だろう)の助動詞「む」の連体形
(あらむ)を
接続助詞。ここでは逆接の確定条件(~のに)
柞葉の
枕詞なので訳しません。同音の重なりから「母」にかかります。
※ちなみに旺文社や三省堂の古語辞典には「ははそばの」と書いてあります。
清やかなり
すがすがしい・思い切りがよいさま・さっぱりとしているさま
(老ひ)給ひ
尊敬の補助動詞。「お~になる・~なさる」。
けり
詠嘆の助動詞「けり」の終止形
31音(おん)口語訳
心配を
かけないように
苦労など
無いふりをする
母 すがすがし
和歌を味わう
上皇后陛下(旧名は正田 美智子さま)は明治時代以降で初めて、民間出身で皇族になられた方です。
いわゆる「ミッチー・ブーム」が始まったように、ご成婚は国民から大歓迎を受けたものの、やはり一部には民間出身であることを批判する声もありました。
上皇后陛下も、そのご母堂様も、心無い批判などを受けて「哀しみ」があったかと存じます。
また、国民同士であれば、結婚してからも母と娘で会うことは可能ですが、皇室に嫁がれた方は、気軽にご実家に戻ることも困難だったでしょう。
「清やかに」という言葉から、娘に心配をかけさせまいと明るく振舞って生きてくださったご母堂様への尊敬と感謝の気持ちが拝察されます。
吉田松陰の和歌に「親思ふ心にまさる親心けふの音づれ何ときくらん」という歌があります。
子どもが思う以上に、親は子供のことを思っている・・・
母親となった今、しみじみと共感します。
今日も一日、あなたがイキイキと生きられることをお祈り申し上げます✨