蝉~高潔の象徴~
茶道教室で、帛紗(ふくさ)を使った蝉結びを教わりました。
お濃茶の稽古をされている方でも1年やっていなかったら忘れてしまうらしい、
難しめの結び方ですw
その際に、先生が「蝉は縁起がいいもの」と仰っていました。
たしかに、蝉と言えば、漢詩では「高潔(こうけつ)」の象徴です。
※高潔:利害損得を気にせず、りっぱな考えを持って はっきりした行動をとるようす。(三省堂国語辞典)常にきびしい態度で自らを律し、他から尊敬される様子だ。(新明解国語辞典)
なぜ高潔の象徴とされたかと言いますと、蝉は無欲にも露(つまり水蒸気)しか口にしないと思われていたからです。
仙人は霞(かすみ。こちらも水蒸気)を食べて生きているなんて伝説を伺ったことがありますので、それに類するのでしょうね。
(実際は樹液を吸っていますが💦)
(ちなみに「竹」も高潔の象徴。自己の志を曲げない真っ直ぐな心という意から。)
ただ、実際に蝉が登場する漢詩について調べたことが無かったので、
この機会に調べてみました☆彡
その前に、俳句と和歌もご紹介♪
蝉と言えば、『おくのほそ道』にある松尾芭蕉の以下の俳句が有名ですね。
目次
閑(しづ)かさや 岩にしみ入る 蝉の声
訳:何という静けさであろう(この山寺の境内は)。
(この静寂の中に)鳴く蟬の声も、あたりを圧する岩肌にしみ入るように感じられる(さらに深い静寂が心に迫るようだ)。
シづかサや イはニシミイる セミのこえ
s音とi音の連続によるリズムが、清らかに澄んでいる印象を与えます♪
ちなみにこの句が出来るまでの初案として「山寺や石にしみつく蟬の声」があったそうです。
そして次の案は「閑かさや岩に染み付く蟬の声」。
最終的な形が最も名句だなあと感じます♪
さて、お次は和歌♪
吹く風の
涼しくもあるか
おのづから
山の蝉鳴きて
秋は来にけり
訳:吹いてくる風がなんと涼しいことよ。
たまたま山の蝉が鳴いて、秋は来たのだなあ(と感じられる)。
※「も」は強意の係助詞、「か」「けり」は詠嘆の終助詞。
「おのづから」は多義語だが、ここでは「自然と・いつの間にか」。
「山の蝉」はヒグラシ(蝉の一種)。
源実朝(さねとも)の歌です。『金槐和歌集』に載っています。
「あれ、蝉なのに秋?」と思った方。
ざっくりと季節を説明しますと、旧暦の7~9月(今の8~10月)が秋だったんです。
だから初秋に蝉が鳴いているのはおかしくないですよね。
(ちなみに受験生へ。七夕も秋です。)
私は五感を複数使った和歌が好きなのですが、
風の涼しさを感じる「触覚」と蝉の声を聞く「聴覚」が活きていて良い歌ですね!
では最後、高潔の象徴!李商隠の「蝉」★五言律詩です。
本以高難飽 徒労恨費声
五更疎欲断 一樹碧無情
薄官梗猶汎 故園蕪己平
煩君最相警 我亦拳家清
気合い入れて、訓読文と訳を作ってみました。
※⑦の訳は「蝉よ、君をわずらわせることになるが、権力闘争や賄賂で私腹を肥やす高官を最も厳しくいましめてもらいたい。」というのも見かけました。
まず、対が美しいなあというのを味わっていただきたいです。
副詞「本(もと)より」と「徒(いたづ)らに」だったり、
漢数字が入った「五更」と「一樹」だったり、
②と③・④と⑤がそれぞれ対句の形だったり♪
内容的にも、①~④は蝉についてで、
⑤⑥は自分についてで、
ラスト⑦⑧は蝉に呼びかけるかたちです。
ザ・漢詩ってカタチなので、生徒に漢詩について教えるときに紹介したくなります♪
ちなみに七五調が好きなので、超訳してみました!
①満腹できぬ 木の上で ②徒労に声を 涸らす蝉
③夜明け前には 声まばら ④蝉がとまる木は 知らんぷり
⑤薄給官吏の 我は漂い ⑥故郷は荒れて 帰られぬ
⑦蝉よ警告 ありがとう ⑧私も君も 高潔でいよう
以上、いろんな「蝉」のうたをご紹介しました。
茶道で蝉結びをする度に、思い出しそうです。
(まずは蝉結びを覚えなきゃ)