令和6年(2024年)宮中歌会始 素敵な歌五選~詠進歌編~
令和6年(2024年)宮中歌会始、お題は「和」でございました。
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素敵な歌五選~皇族・召人の歌編~はこちら。
詠進歌、つまり一般的な国民の和歌から、特に素晴らしいと選ばれた歌は全部で10首です。
1万5千首以上の中から選ばれた10首。
その中から、さらに私の好みで選ばせていただいた歌をご紹介します。
「10首全部見たい。佳作も見たい。」という方は、宮内庁HPのこちらをどうぞ。
目次
1.手作り卒業証書 己が手で漉きたる和紙の証書手に六年生は卒業となる
己(おの)が手で
漉(す)きたる和紙の
証書手に
六年生は
卒業となる
栃木県 古橋正好さんの歌。
元教諭で88歳だそうです。
和紙の紙すき体験はぜひとも我が子にもさせてあげたい体験です。
私も小学生の頃にさせてもらって、厚さを均一にすることは非常に難しいことだと実感して、ご先祖様たちの苦労をしのびました。
この歌では、卒業証書を作られたとのことで、本当に大変だったと思います。
だって、普通の卒業証書は名前以外は印刷ではないですか?
(全文手書きで書いていらっしゃる学校もあると思います。それも本当に大変そう。)
それを、手作り和紙という文字を書くのがメチャメチャ大変そうなものに書かれたなんて、…先生方が途方もない労力をかけて作り上げられたのだと想像できます。
それだけ、子供たちに記念となるものをあげたかったのかなと、愛情を感じました。
古典文法・古文単語解説
(漉き)たる
完了の助動詞「たり」の連体形。
2.携帯電話が無い時代 呼びに来てくれたる人を追ひ越して電話に急ぎし昭和の夜道
呼びに来て
くれたる人を
追ひ越して
電話に急ぎし
昭和の夜道
神奈川県 臼杵喜行さんの歌。
お題の「和」を「昭和」にして詠むことを考えた人は多いと思います。
この歌はスマホどころかPHSも携帯電話もない昭和の時代の情景をうまく詠んでいらっしゃいます。
きっと、誰かからの電話を「今か今か」と待っていらっしゃったのでしょうね。
呼びに来てくれた人を追い越して、
黒電話があるところまで走ったのですね。
どんな知らせだったのか、気になります。
映画のワンシーンのようです。
古典文法・古文単語解説
(急ぎ)し
過去の助動詞「き」の連体形。
3.母に似てきた 和だんすは母のぬくもり大島に袖をとほせば晩年に似る
和だんすは
母のぬくもり
大島に
袖をとほせば
晩年に似る
埼玉県 高橋祐子さんの歌。
「和だんす」といえば、お着物を入れられるタンスです。
お着物の劣化を防ぐために通気性が良い桐などの木製が多いですね。
「大島」は着物で有名な大島紬(つむぎ)。
着物が好きな方なら、「大島」というだけですぐにわかります。
「晩年に似る」というのは、晩年のお母様の姿に似るということでしょうね。
二句目に「母のぬくもり」とあるので、「誰に」は省略されていても伝わります。
生前のお母様の、お着物と娘さんへの愛情を感じました。
きっと「娘に譲りたい」と思っていらっしゃって、
その想いをくんで、大島を袖に通されたのだと思います。
母娘の素敵なドラマだと感じました。
4.黙とう 目を瞑り一分間を祈るとき皆が小さき平和像なり
目を瞑(つむ)り
一分間を
祈るとき
皆(みな)が小(ちい)さき
平和像なり
京都府 小池弘実さんの歌。
21歳の方です。
心を込めて黙とうをしていらっしゃるのが伝わります。
真摯な「祈り」とは、像のようになることだと感じました。
平和像とありますが、仏像で想像しても合うような気がしました。
5.「それいいね」付和雷同の私でもこの恋だけは自己主張する
「それいいね」
付和雷同(ふわらいどう)の
私でも
この恋だけは
自己主張する
新潟県 神田日陽里さんの歌です。
17歳の女の子らしい、とっても可愛らしい歌です。
まわりが芸能人や人気の男子について褒めていたら、
たいしてカッコイイと思ってなくても「そうだよね」と付和雷同しちゃう気持ちもわかります。
そういう性格の子が、「この恋だけは」と言っているのが本当に可愛らしいです。
「自己主張する」ということは、告白もしちゃうのでしょうか?!
がんばれって応援したくなります♡
まとめ
今回は歌会始で3つの記事を書いています。よろしければ、他もご覧ください。
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