源実朝「いとほしや、、、」

源実朝の歌のなかで、特に心に響いた歌をご紹介します。

孤児を見て詠んだ歌とのことです。

詞書(ことばがき)

歌の説明として、『金槐和歌集』にこのように書かれています。

道の辺(ほと)りに幼き童の、母を尋ねていたく泣くを、そのあたりの人に尋ねしか    ば、父母なむ身罷(みまか)りしと答え侍りしを聞きて詠める。

(道の端にて、幼い子供が母親の行方を探し求めて激しく泣いているので、その辺りの人に質問したところ、「(この子の)父母が亡くなった」と答えましたのを聞いて詠む。)

いとほしや
見るに涙も
とどまらず
親もなき子の
母をたづぬる

現代語訳(逐語訳)

気の毒だなぁ。見ていると涙も止まらない。親もいない孤児が母を探し求めているのを見ていると。

現代語訳(『コレクション日本歌人選 源実朝』三木麻子著より)

かわいそうでたまらない、見ていると涙が止まることなく溢れてしまう。親もいない幼い子が母の行方を求めている姿は。

古典文法・古文単語解説

句切れと倒置
初句と三句で区切れています。
また、二句三句の内容は四句結句の後に来るはずなので倒置法が使われています。

いとほし
①気の毒だ ②いとおしい の2方向の訳があります。
弱者に対する場面では①の気の毒だと訳します。

たづぬる
「たづぬ(尋ぬ・訪ぬ)」の連体形。

「たづぬ」には4方向の訳があります。
①(所在のはっきりしないものを)さがし求める ②究明する ③質問する ④訪れる
ここでは①ですね。

そして、この連体形の説明は3通りあると思います。

1.初句にある「や」を受けて、係り結びになっている。
→句切れがあるので、この説明は疑問です。

2.準体法で、「時・こと・者」などが省略されている。
→いろんな方の訳し方を確認しました。
省略を補っている方が多く、これは該当すると思われます。

例)母親を探していること
例)母を求めて泣くさま
例)母を探している。※補い無し

3.連体形止めで余情を生み出す
→旺文社の『高校入試でる順 古典問題の征服』にありました。
こちらも該当すると思います。

和歌を味わう

優しさが伝わる歌ですね。
実朝は(実権が奪われており)時の権力者ではありませんでしたが、豊かな暮らしをしていた為政者側の人間です。
そういった人物が、孤児を無視するのではなく、気の毒に思って涙を流していたというのは、なんと情がある方だったのだろうと思います。
このような優しい和歌が後世に伝えられることで、優しい気持ちも後世に伝えられてきているのだろうなと、和歌の意義を感じます。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。 今日も一日、あなたがイキイキと生きられることをお祈り申し上げます✨

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