『源氏物語』で有名な和歌の訳くらべ②

『源氏物語』で特に有名な和歌の訳くらべ②!(①はこちらです

①が紫の上が亡くなる直前、光源氏と明石の中宮に見守られながら詠んだ、紫の上最期の歌でした。
今回の②はそれに対する光源氏の返歌です。

ややもせば消えをあらそふ露の世に 後れ先だつほど経ずもがな

ややもせば
消えをあらそふ
つゆの世に
おくれ先だつ
ほどずもがな

訳くらべ

以下、訳の文字数が多い順に並べています。

板野博行『源氏物語を3日で極める』

どうかすると先を争って消えようとする露、その露のようにはかないこの現世では死に遅れたり先だったりするのに間をおかず、一緒に死にたいものです。

 ↑ 世を「現世」と訳しているのが珍しいです。

フロンティア古典教室HP

どうかすると、先に消えるのを争う露のようにはかない人の世に、後れて先立つ間もないようにしたいものだ。
※死ぬなら一緒に同時に死にたい。

 ↑ 注記で補足があります。

待井新一『文法全解 源氏物語(四)』

ともすれば先を争って消えてゆく露のようにはかないこの世に、私たちは、おくれたり先だったりする間をおかずに、一緒に死にたいものです。

 ↑ 中盤に「私たちは」と主語を補足してくれていて、わかりやすいです。

高野晴代 コレクション日本歌人選『源氏物語の和歌』

ともすればどちらが先に死ぬかを競う無常な世であるが、今は後れるか先かと争わずにすむようであってほしい。私も早く死にたい。

 ↑ 「露」は省略されています。最後に端的に心情を吐露しているのが印象的です。

渋谷栄一 源氏物語の世界 再編集版HP

どうかすると先を争って消えてゆく露のようにはかない人の世に
せめて後れたり先立ったりせずに一緒に消えたいものです

 ↑ 「せめて」という語は、元の歌に該当する語がありませんが、「愛するあなたの死を避けられないのなら」という気持ちが暗に込められていていいですね。

木村朗子『百首でよむ「源氏物語」』

ややもすると先を争って消える露のような私たちですが、先立たれてもほどを経ずにおくれずにいたいと思います

 ↑ 「後れ先だつ」を「先立たれても」と訳しているのが特徴的です。

俵万智『愛する源氏物語』

ともすればはかない露のような世にあなたに後れて生きたくはない

 ↑ 57577での訳。結句の「生きたくはない」は強い言葉ですね。

◇平井仁子訳

君と僕
競争なんて
したくない。
この世のゴール
先に逝くなよ。

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