『紫式部日記』の和歌を31音口語訳 ~大河ドラマ 光る君へを楽しもう♪~
目次
- 2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」
- 31音(おん)口語訳とは
- 『紫式部日記』の歌とその31音口語訳
- 1.女郎花盛りの色を見るからに 露の分きける身こそ知らるれ
- 2.白露は分きても置かじ女郎花 心からにや色の染むらむ
- 3.紀伊の国の白良の浜に拾ふてふ この石こそは巌ともなれ
- 4.菊の露若ゆばかりに袖触れて 花のあるじに千代は譲らむ
- 5.めづらしき光さしそふさかづきは もちながらこそ千代もめぐらめ
- 6.水鳥を水の上とやよそに見む われも浮きたる世を過ぐしつつ
- 7.雲間なくながむる空もかきくらし いかにしのぶる時雨れなるらむ
- 8.ことわりの時雨れの空は雲間あれど ながむる袖ぞ乾く間もなき
- 9.いかにいかが数へやるべき八千歳の あまり久しき 君が御代をば
- 10.あしたづの齢しあらば君が代の 千歳の数もかぞへとりてむ
- 11.浮き寝せし水の上のみ恋しくて 鴨の上毛にさへぞ劣らぬ
- 12.うちはらふ友なきころの寝覚めには つがひし鴛鴦ぞ夜半に恋しき
2024年NHK大河ドラマ「光る君へ」
紫式部が主役の大河ドラマです。
古典の講師をしている私にとっては、文字の上だけで見てきた人物を俳優さん・女優さん達が演じてくださるなんて、大興奮です!!!
既にNHK出版の『NHK大河ドラマ 歴史ハンドブック 光る君へ: 紫式部とその時代』も予約して、待ち遠しい限りです!
「光る君へ」を楽しむ工夫として、『紫式部日記』の和歌を31音口語訳していきます♪
31音(おん)口語訳とは
和歌を味わうには、訳も五七五七七が良いと思っています。
5+7+5+7+7=31音です。
和歌は調(しら)べが命。
調べとはリズムのこと。
ぜひ31音口語訳を声に出して読んで、そのあとに元の和歌を声に出して読んでいただければと思います!
なお、たった31音にまとめるので、枕詞(まくらことば)や地名などの情報をそぎ落としています。
逆に、背景を知らないと理解しにくい歌には必要な要素を加えています。
また、できるだけ「口語」にした方が若い方にも伝わりやすいと思いまして、くだけた表現にしています。
どうが「言葉の乱れ」だと目くじらを立てずに、ご容赦頂ければ幸いです。
『紫式部日記』の歌とその31音口語訳
1.女郎花盛りの色を見るからに 露の分きける身こそ知らるれ
盛りの色を
見るからに
露の分きける
身こそ知らるれ
黄色に映える
オミナエシ。
見れば自分の
すっぴん恥じる。
背景:藤原道長が紫式部にオミナエシの一枝を渡し、和歌を詠むことを促した。
美しいオミナエシと比べて、「我が朝顔(まだ化粧もしていない寝起きの顔)」であることを恥ずかしがっている。
意訳:オミナエシが花盛りの黄色に咲き誇っているのを見るやいなや、(秋の露によって美しくなったオミナエシに対して、)露に差別されて美しくしてもらえない自分の姿が身に染みて恥ずかしくなります。
2.白露は分きても置かじ女郎花 心からにや色の染むらむ
分きても置かじ
女郎花
心からにや
色の染むらむ
差別しないよ。
オミナエシは
自分で色を
染めてるのだろう。
背景:1の歌を受け取った道長が、「おお、早い」とほほ笑んで、返歌を詠んだ。
意訳:白露は降りる場所の差別をしない。オミナエシは美しくあろうと思う自らの心によって、黄色に染まっているのではないだろうか。(あなたも化粧をすれば綺麗になるよ。)
3.紀伊の国の白良の浜に拾ふてふ この石こそは巌ともなれ
白良(しらら)の浜に
拾ふてふ
この石こそは
巌(いわほ)ともなれ
白良ビーチで
ゲットした、
碁石はいつか
大岩になる。
背景:碁で負けた播磨守の饗応の際、波打ち際に書かれてあったという歌。石が巌になるという「君が代」のような賀歌なので、彰子の出産前に、子の長寿を願って書かれたのか?!
なお、この時の子は敦成親王。のちの後一条天皇です。
意訳:紀伊の国の白良の浜(現在の和歌山県)にて拾うという、この碁石こそは大きな岩となるだろう。
4.菊の露若ゆばかりに袖触れて 花のあるじに千代は譲らむ
若ゆばかりに
袖触れて
花のあるじに
千代は譲らむ
若返るための
菊の露。
あなたが千年
生きるといいわ。
背景:9月9日の重陽(ちょうよう)の節句にて。「菊の露」は菊の花の上においた露。それを綿に含ませて、顔などを拭くと若返るとされていました。紫式部は「菊の露」の綿をもらった後に、この歌を詠みました。(歌ができた時には贈り主は帰ったと言われ、渡せずじまいになったそうです。)
意訳:(いただいた綿の)菊の露は(私は袖が触れるくらいの)ほんの少し若返るほど(だけ使うこと)にして、この花の贈り主に、千年分の(若返りつつ)寿命(を延ばす機会)は譲りましょう。
5.めづらしき光さしそふさかづきは もちながらこそ千代もめぐらめ
光さしそふ
さかづきは
もちながらこそ
千代(ちよ)もめぐらめ
持つ盃は
望月(もちづき=満月)の
ままで千年(せんねん)
めぐる希望よ。
背景:敦成親王(のちの後一条天皇)の誕生を祝う宴で詠んだ賀歌。
修辞法:「さかづき」は「盃」と「栄月」の、「もち」は「持ち」と「望(月)」の掛詞。
意訳:(若宮誕生という)素晴らしい(希望の)光が加わった(宴の)盃は、(人々が順番に捧げ)持ち続け、満月のように欠けずに、千年もめぐるだろう。
6.水鳥を水の上とやよそに見む われも浮きたる世を過ぐしつつ
水の上(うへ)とや
よそに見む
われも浮きたる
世を過ぐしつつ
苦労と同じ。
憂鬱な
うき世に我も
生き続けてる。
背景:道長邸(土御門殿)の庭で水鳥が遊んでいるのを見て詠んでいます。この歌の直後の言葉から、紫式部の心情が読み取れます。
「かれも、さこそ心をやりて遊ぶと見ゆれど、身はいとくるしかんなりと、思ひよそへらる。(意訳:水鳥たちも、あのように憂さを晴らして遊ぶように見えるけれども、内心はとても苦しいようだと、自分と相通じるところがあるように思われる)」
意訳:(一見遊んでいるようで苦労している)水鳥を(自分とは違う)水の上に生きる余所者だと思うだろうか、いや、思わない。私も浮いているような憂世に暮らし続けていることよ。
7.雲間なくながむる空もかきくらし いかにしのぶる時雨れなるらむ
ながむる空も
かきくらし
いかにしのぶる
時雨(しぐ)れなるらむ
私の涙。
絶え間無く
どれほど堪えて
降り出したのか。
背景:女友達である小少将の君が紫式部に贈った手紙にある歌です。
意訳:絶え間なく物思いに耽って眺めている空も、雨雲の切れ間がなくあたり一面暗くなり、どれほど堪えていて、降り出した時雨なのでしょう。(あなたを想い慕い、堪えきれずに流す涙のようです。)
8.ことわりの時雨れの空は雲間あれど ながむる袖ぞ乾く間もなき
時雨(しぐ)れの空は
雲間あれど
ながむる袖ぞ
乾く間もなき
降る雨ならば
途絶えるが、
私の涙
切れ間も無いよ。
背景:紫式部による返歌。
意訳:(初冬の季節柄、降るのが)もっともな時雨の空には雲間があるけれども、(私があなたを思って)物思いに耽て(泣いて濡れる私の)袖は、乾く間もありません。
9.いかにいかが数へやるべき八千歳の あまり久しき 君が御代をば
数(かぞ)へやるべき
八千歳(やちとせ)の
あまり久しき
君が御代(みよ)をば
五十日目に
その御代(みよ)を
想像すれば
数えきれない。
背景:誕生から五十日のお祝いの宴の後に、道長に命じられて紫式部が詠んだ。
※古文単語で「五十日」は「いか」と読む。
意訳:若宮誕生から五十日のお祝いに、どのように遙かまで数えるのが良いのでしょう。何千年も長く続くはずの若宮のご治世を。
10.あしたづの齢しあらば君が代の 千歳の数もかぞへとりてむ
齢(よはひ)しあらば
君が代の
千歳(ちとせ)の数も
かぞへとりてむ
鶴のようなら
若宮の
御代の千年(せんねん)
数えるだろう。
背景:9の歌を受けて、道長がすぐに詠んだ歌。
※「あしたづ(葦田鶴)」は歌語で鶴のこと。(「たづ」でも鶴)
意訳:(私に)鶴のような(千年の)寿命があるならば、きっと若宮の御代の千年の数もはっきりと数えるだろう。
11.浮き寝せし水の上のみ恋しくて 鴨の上毛にさへぞ劣らぬ
水の上のみ
恋しくて
鴨(かも)の上毛(うはげ)に
さへぞ劣らぬ
背景:紫式部が里で、同僚の女房である大納言の君のことが恋しくなって贈った。
意訳:(あなたと一緒に)仮寝した、水の上(の水鳥のように装束にくるまっていた中宮の御前)ばかりが恋しくて、(里での独り寝は霜がついている)鴨の羽にさえも劣らない(ほど冷たい)。
12.うちはらふ友なきころの寝覚めには つがひし鴛鴦ぞ夜半に恋しき
友なきころの
寝覚めには
つがひし鴛鴦ぞ
夜半に恋しき
背景:11への返歌。
意訳:
他の歌の訳も、おいおい掲載させていただきます。
こちらのページに来訪いただきまして、ありがとうございます。