【明】の和歌~令和8年(2026年)歌会始のお題「明」~
令和8年(2026年)歌会始のお題は次のように発表されました。
「明」と定められました。
お題は「明(めい)」ですが、歌に詠む場合は「明」の文字が詠み込まれていればよく、「鮮明」、「文明」、「明星」のような熟語にしても、また、「明るい」のように訓読しても差し支えありません。
〆切は9月末です。あなたも詠進してみませんか?
入選したら「歌会始の儀」に呼んでいただけて、
天皇陛下をはじめとした皇室の方々とお会いできるかも?!
(宮内庁HP:詠進要領)https://www.kunaicho.go.jp/event/eishin.html
「明」という言葉が出てくる和歌はいっぱいあります♪
ぜひこの機会に味わってみてください☆彡
「明」の短歌を詠むヒントになると思います。
「御製(天皇の和歌)」六首
東京に豊かな緑のこしつつ明治の杜は生命はぐくむ 今上天皇
東京に
豊かな緑
のこしつつ
明治の杜は
生命はぐくむ
今上天皇
★皇太子時代の平成十二年(二〇〇〇)に明治神宮鎮座八十年ということでお詠みになった御歌です。
こちらの歌が詠まれた背景について、小林左門先生の『皇太子殿下のお歌を仰ぐ』から引用させていただきます。
明治神宮は都内の中心にありながら、広大な神域に神社のうっそうとした杜が広がり、首都にうるおいと落ち着きを与える貴重な存在です。
この杜の造営にあたっては、北は樺太から南は台湾まで、全国から十万本もの献木が届けられました。造園にあたっては十一万人におよぶ青年団の勤労奉仕があったということです。(中略)殿下のお歌には、東京という大都市の中にありながら明治神宮が豊かな緑を残していること、そしてその社には多くの命が育まれていることへの感動と慈しみのお心が感じられます。
明け初むる賢所の庭の面は 雪積む中にかがり火赤し 上皇陛下
賢所の
庭の面は
雪積む中に
かがり火赤し
上皇陛下
賢所の
庭に積む
雪に輝く
かがり火の赤
意訳:新年が明け初める賢所の庭の表面は、雪が積もっている中で、かがり火が赤い。
★賢所は宮中にある、皇祖(こうそ)天照大御神がまつられている部屋です。祭祀が行なわれる所です。
★平成十七年に「歳旦祭(さいたんさい)」という題でお詠みになった歌です。歳旦祭は元日の早朝に三殿で行われる年始の祭典です。
★天皇陛下は歳旦祭の前に、四方拝(しほうはい)という祭祀を宮中の庭で行っていらっしゃいます。
(参考)宮内庁HP「主要祭儀一覧」
★白い雪と赤いかがり火、そして夜明けの光。とても幻想的ですね!
元旦の寒い中、国民の幸せを祈って下さっています。
あけがたの寒きはまべに年おいし あまも運べり網のえものを 昭和天皇
※「明」の漢字表記はありませんが、「あけがた=明け方」なのでご紹介させていただきました。
寒きはまべに
年おいし
あまも運べり
網のえものを
昭和天皇
寒い浜辺で
老海女も
網の獲物を
運んでいるよ
意訳:明け方の寒い浜辺に、年老いた海女も運んでいる。網で捕まえた獲物を。
★昭和十六年の歌会始「漁村曙」の歌です。貝類や海藻をいただくときには、苦労して潜って捕って下さった海女の方々のことを思い浮かべたいですね。
飛鳥の明日香の里を置きて去なば 君があたりは見えずかもあらむ 第43代 元明天皇
意訳:明日香の里をあとにして立ち去ったら、あなたが(眠っていらっしゃる)あたりは見えなくなってしまうのでしょうか。 ★『歴代天皇の御製集』P.79より 意訳:海上で豊かにたなびく雲に夕日が輝く。今夜の月はこうこうと海原を照らすにちがいない。 ★『歴代天皇の御製集』P.70より 意訳:置目よ。近江の国から来た置目よ。明日からは山の向こう側にいて、会えなくなるのだろうか。 ★『歴代天皇の御製集』P.55より もっと御製について読んで見たいという方は、こちらをどうぞ。
明日香の里を
置きて去なば
君があたりは
見えずかもあらむ
元明天皇
去ればあなたが
眠る墓
見えなくなって
しまうのかしら
★藤原京より平城京にお遷りの途中、御輿を停めて、古郷を顧みられてお詠みになった歌です。亡き夫である草壁皇子が葬られている土地を離れることを惜しまれています。わたつみの豊旗雲に入日さし 今夜の月夜清明らけくこそ 第38代 天智天皇
豊旗雲に
入日さし
今夜の月夜
清明らけくこそ
雲は夕日で
茜色。
月も明るく
航海照らす。
★天智天皇は「大化の改新」を進めた中大兄皇子です。
★母である斉明天皇が百済支援と新羅討伐のために難波の港から筑紫に向けて海路遠征された、その出航後間もない時に、国運を祈って詠まれました。置目もや淡海の置日明日よりは み山降りて見えずかもあらむ 第23代 顕宗天皇
淡海の置日
明日よりは
み山隱りて
見えずかもあらむ
墓を知らせた
置目さん。
淡海に帰り
会えなくなるね。
★顕宗(けんぞう)天皇と読みます。雄略天皇の近臣によって殺された父親の墓の場所がわらなくなっていたところ、あるおばあさんが場所を教えてくれたので、天皇は感謝して皇居によく遊びに越させていました。そのおばあさん(置目)が郷里に帰るときに詠んだ歌です。「百人一首」八首
今来むといひしばかりに長月の 有明の月を待ち出でつるかな 素性法師
いひしばかりに
長月の
有明の月を
待ち出でつるかな
素性法師
あなたが言った
秋の夜。
夜明けの月が
先に来ちゃった。
★百人一首21番歌。
意訳:「すぐ行くよ」と(あなたが)言ったばっかりに、(陰暦)九月の(長い長い)夜を、(陰暦十六日過ぎの、夜が明けても残る)有り明けの月(が出るまであなた)を待ってしまったことだよ。
★ちなみに「有明の月」の「ありあけ」は「月があるのに夜が明ける」の意味だという説があります。
有明のつれなく見えし別れより 暁ばかり憂きものはなし 壬生忠岑
つれなく見えし
別れより
暁ばかり
憂きものはなし
壬生忠岑
夜明けの月も
冷淡で、
未明が一番
嫌いになった。
★百人一首30番歌。
意訳:(女が冷淡にも逢ってくれなかった帰りの朝、)有明けの月が、(女のように)冷淡に見えた、あの別れの朝から、夜明け前の時間ほど、つらいものはない。
朝ぼらけ有明の月と見るまでに 吉野の里に降れる白雪 坂上是則
有明の月と
見るまでに
吉野の里に
降れる白雪
坂上是則
輝く吉野に
ほの白く
降る白雪は
月光のよう。
★百人一首31番歌。
意訳:ほのぼのと夜が明けていくころ、「有り明けの月(の光が地上を照らしているのか)」と見まちがえるほどに、吉野の里に降り積もっている(輝く)白雪だなあ。
☆雪を花に、花を雪に喩えるように、月光の白さを雪や霜に、雪や霜を月光の白さに喩えることもあるんです。
夏の夜はまだ宵ながら明けぬるを 雲のいづこに月宿るらむ 清原深養父
まだ宵ながら
明けぬるを
雲のいづこに
月宿るらむ
清原深養父
日が暮れてすぐ
朝が来た。
月は落ちずに
雲の後ろか。
★百人一首36番歌。作者は清少納言の曽祖父です。
意訳:夏の夜は、まだ宵〔=夜に入って間もないころ〕(だと私が思ってい)ながらも、(いつの間にか)明けてしまったので、雲のどこに、月は宿っているのだろう。(まだ西の山までは辿り着いていないだろう。)
☆月を擬人化しています。
明けぬれば暮るるものとは知りながら なほ恨めしき朝ぼらけかな 藤原道信朝臣
暮るるものとは
知りながら
なほ恨めしき
朝ぼらけかな
藤原道信朝臣
会えるとわかって
いるものの、
君と離れる
朝は悲しい。
★百人一首52番歌。
意訳:夜が明けてしまうと、また日は暮れるものだ(そしてまたあなたと逢える)とはわかっているものの、それでもやはり、恨めしい明け方であることよ。
☆「後朝(きぬぎぬ)の歌」と言われる、逢瀬の後に男から女に贈った歌です。
嘆きつつひとり寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る 右大将道綱母
ひとり寝る夜の
明くる間は
いかに久しき
ものとかは知る
右大将道綱母
あなたを待って
嘆いてる
夜の長さを
わかってますか?
★百人一首53番歌。
意訳:(あなたが訪ねてこないのを幾晩も)嘆き続けて一人で寝る夜が明けるまでの時間がどれほど長いものか、あなたはご存じですか。いや、ご存じないでしょうね。
ほととぎす鳴きつる方をながむれば ただ有明の月ぞ残れる 後徳大寺左大臣
鳴きつる方を
ながむれば
ただ有明の
月ぞ残れる
後徳大寺左大臣
鳴いたと思って
目をやると
夜明けの月が
ぽつりと空に。
★百人一首81番歌。
意訳:ほととぎすが(たった今)鳴いた方角を眺めると、ただ有明の月だけが(夜明けの空に)残っている。
☆夏の到来を知らせるホトトギスの初音を聴くために、夜を明かして待つことも多かったようです。
夜もすがらもの思ふころは明けやらで 閨のひまさへつれなかりけり 俊恵法師
もの思ふころは
明けやらで
閨のひまさへ
つれなかりけり
俊恵法師
悩み、なかなか
夜は明けず、
ドアの隙間の
闇もつれない。
★百人一首85番歌。
意訳:一晩中、思い悩んでいる最近は、なかなか夜が明けなくて、(光が差し込んでこないし、あの人も訪ねてこない)寝室の隙間も冷淡なのだなあ。
☆作者は男性ですが、女性の立場に立って詠んでいます。「閨(=寝室)のひま(隙間)」から恋人が入ってくる気配がなくて、つらいのでしょうね。
もっと百人一首について読んで見たいという方は、こちらをどうぞ。
戦争に関する歌 三首
明日有りと思ふ心の若櫻 散り行く花の我身なりせば 高須孝四郎
思ふ心の
若櫻
散り行く花の
我身なりせば
高須孝四郎
命があると
思ってる
私は若い
桜のようだ
意訳:明日も(命が)あると思う心は、まるで若々しい桜のようだ。散りゆく花のように、(間もなく命を落とすであろう)私の身であるならば。
★海軍少尉 高須孝四郎さんの辞世の句です。靖国神社の遊就館で見かけました。
「若桜」と「散りゆく花」の対比が印象的です。
桜の花のように散りゆく運命を受け入れる覚悟が感じられます。
さがし物ありとさそひ夜の蔵に明日征く夫は吾を抱きしむ
ありとさそひ
夜の蔵に
明日征く夫は
吾を抱きしむ
夜の蔵へと
誘って
明日征く夫は
ハグしてくれた
意訳:「探し物がある(から一緒に来てくれ)」と(いう口実で私を)誘って、夜の蔵に行き、明日出征する夫は私を強く抱きしめた。
★出征前夜の夫婦の切ない別れの場面です。人目を避けて、静かな夜の蔵の中で愛する妻を抱きしめたご主人の気持ちと、奥さんの気持ちを想像すると、胸がしめつけられます。
★和歌では「夫」という漢字で「つま」と読み、意味は「夫」です。
海底の水の明りにしたためし永き別れのますら男の文
水の明りに
したためし
永き別れの
ますら男の文
意訳:準備中
★準備中
教訓歌(道歌)三首
不二の山のぼり詰めたる夕には こころの宿に有明の月 二宮尊徳
のぼり詰めたる
夕には
こころの宿に
有明の月
二宮尊徳
ような困難
乗り切れば
心に清き
月が輝く
意訳:富士山の頂上に登りつめた夕暮れには、(私の)心の宿に有明の月(が輝いている)。
★富士山には私も登ったことがありますが、頂上まで登るのはとても大変です。
そういった困難を乗り越えた先に見える、精神的な悟りや清明さを有明の月にたとえているのだと思われます。
人を救うには宗教もあり哲理もある。釈迦があり、孔子がある。登り口の数々ある不二の山道の通りである。しかし登りつめた目的はただ一つ、世を救うことである。また一生を通じて一家を立てる間は登山中である。人を助け世を救う譲道を見いだした時、月影が輝く境地にある。
『解説 二宮先生道歌選』(一円融合会)より
明日ありと思う心のあだ桜夜半に嵐の吹かぬものかは
思う心の
あだ桜
夜半に嵐の
吹かぬものかは
親鸞上人
意訳:準備中
★同じく親鸞聖人の歌で「明日ありと思う心のだまされて今日をむなしく過ごす世の人」というものも残っています。
明日のこと昨日のことに渡らずとただ今橋を渡れ世の人
昨日のことに
渡らずと
ただ今橋を
渡れ世の人
意訳:準備中
★準備中
『源氏物語』に登場する歌 三首
※『源氏物語』には他にも多くの「明」が含まれる和歌があるのですが、ここでは三首だけ取り上げます。
世に知らぬ心地こそすれ有明の 月のゆくへを空にまがへて 光源氏
心地こそすれ
有明の
月のゆくへを
空にまがへて
光源氏
気持ちだ。君は
誰なんだ?
どこに行ったの?
月のようだね。
意訳:(これまで)まったく味わったことのない気持ちだ。有明の月(のようなあなた)の行方を見失って。
★第8帖 花宴(はなのえん)より
★「有明の月」は朧月夜の姫君を指します。朧月夜を素性を知りたいと思う源氏の独詠歌です。
心からかたがた袖を濡らすかな 明くと教ふる声につけても 朧月夜
かたがた袖を
濡らすかな
明くと教ふる
声につけても
朧月夜
考え泣いて
しまいます。
「あく」の知らせを
聞くにつけても。
意訳:自分の心が原因となって、あれこれ(と考えてしまい)涙で袖を濡らしてしまうなあ。夜が明けると教える声(を聞く)につけても。(”あく”で、あなたが私に”飽きる”と思ってしまい。)
★第10帖 賢木(さかき)より
★朧月夜の姫君が光源氏との別れを寂しがって詠んだ歌です。この直前に「虎一つ(午前四時)」という声が聞こえています。
★「あく」は「明く(夜が明ける)」と「飽く(飽きる)」の掛詞です。
宮人は豊明といそぐ今日 日影も知らで暮らしつるかな 光源氏
豊明と
いそぐ今日
日影も知らで
暮らしつるかな
光源氏
意訳:宮中に仕える人々が豊明の節会(せちえ)に夢中になっている今日、私は日の光も(舞姫たちが冠に飾る日蔭の蔓も)見ないで暮らしてしまっているなあ。
★第41帖 幻(まぼろし)より
★最愛の妻だった紫の上が亡くなってしまい、意気消沈している光源氏の歌です。
★「ひかげ」は「日影(ひかげ。日の光)」と「日蔭の蔓(ひかげのかずら。節会などで使う冠の装飾)」の掛詞。
偉人の歌
極楽も地獄も先は有明の月の心に懸かる雲なし 上杉晋作
地獄も先は
有明の
月の心に
懸かる雲なし
上杉晋作
意訳:準備中
★準備中
意訳:準備中
★準備中
『万葉集』三首
時の花いやめづらしもかくしこそ見し明らめめ秋立つごとに 大伴家持
いやめづらしも
かくしこそ
見し明らめめ
秋立つごとに
大伴家持
ますます素敵!
ご覧あれ。
心が和む。
秋来る度に。
意訳:季節の花は、(秋は)ますます素晴らしいなあ。このように御覧になって、お気持ちを晴らしなさってください。秋が来るたびに。
★「あきらむ(明らむ)」は<❶(事情や理由を)明らかにする ❷気持ちを晴らす・明るくする>。ここでは❷。
今夜の有明の月夜ありつつも 君をおきては待つ人もなし 詠み人知らず
有明の月夜
ありつつも
君をおきては
待つ人もなし
詠み人知らず
意訳:今夜の有明の月のようにあり続けても、あなた以外には待つ人もいないのです。
★「ありあけ」と「あり」のダジャレですね。
古文単語の「あり」は「生きている」という意味が重要です。
生き続けている間、生涯、あなただけをお慕いしていますっていう歌です💕
「明」といえば
「明」がつく語を意味で分けてみました。
『角川新字源』をベースとして整理しました。
❶あかるい(あかるし)。あきらか。
㋐光が照らしてあかるい。
明月、月明、灯明、松明(たいまつ)、照明、光明、明度、明色、透明
㋑はっきりしている。
明白、明快、明瞭、明確、明解、明言、明記、言明、明答、表明、説明、公明、表明、自明、不明、簡明、平明
㋒めだってあらわれる。
著明、鮮明
㋓視力がすぐれている。
明視、失明
㋔かしこい。さとい。
賢明、英明、開明、文明、明徳
㋕澄みきっている。
明鏡止水
❷あきらかにする。はっきりさせる。見わける。
明察、明晰、解明、究明、糾明、克明、釈明、証明、判明、弁明、明示
❸あける(あく)。夜があける。
未明、明け方、黎明(れいめい)、有明の月
❹あくる日。あくる年。
明日、明後日、明晩、明夜、明春、明年
❺固有名詞
明治(時代)、明石(地名)、明(みん、中国の王朝名)、明太子(めんたいこ)
❻その他
幽明(あの世とこの世)、神明(神)
皆さんも「明」で歌を詠んでみませんか?
ぜひ歌会始に応募してみて下さい。
〆切は2025年9月末です。
(宮内庁HP:詠進要領)https://www.kunaicho.go.jp/event/eishin.html