秋の田のかりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ(天智天皇)

百人一首1番
あきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ
決まり字:あきの

秋の田の
かりほのいお
とまをあらみ
わが衣手ころもで
つゆにぬれつつ

訳うた:秋の田を
    夜通し守る
    仮小屋の
    屋根が粗くて
    袖にも夜露よつゆ

現代語訳

秋の田んぼの、
刈り取った穂(を鳥獣などから守るため)に作られた仮小屋の
(屋根を覆っている茅などの)草の編み目が粗いので、
(見張り当番の)私の袖は
繰り返し夜露で濡れるなあ。

古典文法・古文単語解説

  • 仮庵(かりほ)の庵(いほ)
    「仮庵」は、農作業や田の番のために一時的に作る仮小屋のことです。
    「かりほ」は「かりいほ」が縮まった形とされます。
    「庵」は粗末な小屋のことです。

    「仮庵の庵」と似た言葉を重ねることで、歌の調子を整えています。
    また「かりほ」は「刈り穂」との掛詞(響かせている?)と見る説もあります。
  • 苫(とま)
    菅(スガ)や茅(カヤ)などで編んだむしろのようなものです。屋根を葺(ふ)く〔=覆う〕材料として使われました。

(参考)

▲世界遺産になっている岐阜県 白川郷の合掌造りという茅葺屋根の家屋です。「茅葺き」のイメージができない方はこれをイメージするといいかも?!(これは豪雪にも耐えられる、しっかりした茅葺きですけどね)

  • 苫をあらみ
    「苫の編み目が粗いので」という意味です。
    ここは文法的にも重要です。

    AをBみ」は、原因・理由の形で「AがBなので」です。

    「あらみ」の「あら」は、形容詞「粗し」の語幹です。
    「名詞+を+形容詞の語幹+み」=「〜が…なので」
    と覚えておくと便利です。

  • わが衣手(ころもで)
    「私の袖」という意味です。「衣手」は和歌でよく使われる言葉で、衣の袖を表します。
  • 露にぬれつつ
    「つつ」は動作の反復・継続を表す接続助詞です。
    和歌などの文末では⦅余情・詠嘆⦆を表し、「…し続けていることよ。繰り返し…していることよ。」などと訳されます。

作者・天智天皇について

天智天皇は、第38代天皇です。
即位前は中大兄皇子と呼ばれ、中臣鎌足とともに蘇我氏を倒し、大化の改新を進めました。

都を近江大津宮へ遷(うつ)されました。
その縁で、滋賀県大津市には天智天皇をご祭神とする近江神宮が昭和15年に創建されています。
近江神宮の境内にある近江勧学館は、「全国高等学校かるた選手権大会」などの舞台として知られています。
映画『ちはやふる』での撮影にも使われています♪

ドラマ(マンガ、アニメ、映画)『ちやはふる』をもっと楽しむ和歌

律令国家の土台を築いた天皇としても知られています。
というのも、我が国初の令(りょう)といわれる近江令おうみりょうの制定に着手され、
また、全国規模での戸籍である庚午年籍こうごねんじゃくを整備されたからです。

天皇の御製はこちらもご覧ください

ただし、この歌はもともと『万葉集』の詠み人知らず(おそらく農民)の歌がもとになったと考えられています。
  あきたかる かりいほをつくり わがをれば ころもでさむく つゆぞおきにける
「秋田刈る 刈廬を作り 我が居れば 衣手寒く 露ぞ置きにける」〈2174〉
訳:秋の田(の稲)を刈る、仮小屋を作って私がそこにいると、(夜が更けるにつれて)着物の袖が冷たくなって、夜露で濡れるなあ。

のちに、民の苦労に心を寄せる天皇の歌として、「天智天皇の御製」とされるようになりました。

和歌を味わう

和歌のソムリエ
和歌のソムリエ
秋の夜に田んぼで見張りの番をするのって大変そうだよね

当時は今みたいな「案山子(かかし)」が発明されていませんでした。
なので、せっかく実った稲穂を鳥獣に食べられてしまうリスクがあったんです。

日本昔話でも、『かちかち山』ではタヌキが畑を荒らしていますし、
『舌切り雀』でも地域の伝承によっては雀が田の苗や穂を荒らす話があります。

「みんなで苦労して作った稲を、今夜は自分が当番だから守るんだ」みたいな気持ちで守ってたのかな?!と思います。

結句の「露にぬれつつ」は「夜露に負けずに頑張ってるよ☆」という気持ちなのか、
「夜露が冷たいよー。。。」(シクシク。。。涙でも濡れる)という気持ちなのか、
あるいは「次に仮庵の屋根を編むときには、粗い部分が無いように細かく編むぞ!」という気持ちだったりして。

この歌のもとになった『万葉集』の歌は、農民の労働歌で民謡だったと言われています。
仮庵の中で、草鞋(あらじ)を編むなどやりつつ、謡っていたのかな~というイメージも膨らみます。

 

さて、「民の苦労に心を寄せる天皇の歌」とされたことについても少し触れたいと思います。
なんといっても小倉百人一首の第一首目に選ばれている歌です!

天皇が民の苦労に心を寄せていらっしゃるという優しさや愛情が感じられる歌から始まっているのが、とても素敵だなと感じます。

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